最新記事

東アジア

朝鮮半島が恐れる口蹄疫の「二次災害」

口蹄疫の拡大が韓国と北朝鮮に大打撃を与えているが、今後もっと深刻な問題に発展する可能性も

2011年4月4日(月)12時49分
ドナルド・カーク

ウイルスの猛威 ソウル郊外の農場で口蹄疫ワクチンを家畜に接種する獣医学校のボランティア(2010年12月) Reuters

 朝鮮半島では、家畜の伝染病である口蹄疫が過去最悪の猛威を振るっている。

 口蹄疫の特徴的な症状は発熱と、口やひづめの周囲に生じる水疱だ。感染しても多くの家畜は死を免れるが、衰弱し、ほかの家畜にウイルスを広める可能性は残る。このため北朝鮮と韓国の当局は感染の拡大を阻止するために、感染が確認された家畜の殺処分を行ってきた。

 しかし皮肉なことに、この大量殺処分が両国の国民の懸念を一層増す結果となっている。

 昨年11月の口蹄疫発生以来、合計300万頭以上の豚や牛が殺処分されている韓国では、雨の多い時期が近づくにつれてある懸念が高まっている。殺処分した家畜の死骸を埋めた約4600カ所に降り注ぐ雨水によって、汚染物質が河川に流出して感染を拡大させるのではないか、という懸念だ。

 一部の報告によれば、大量の処分に追われた当局が家畜を生きたまま埋めたり、埋却用の穴を十分な深さまで掘らなかったり、きちんとビニールシートを敷かなかったケースもあるという。気温が高くなって死骸が腐り始めると、給水システムを汚染する可能性がある。

感染した家畜でも「もったいない」

「北朝鮮の問題はさらに深刻だ」と、韓国生命工学研究院のある獣医は言う。「北朝鮮は生活水準が極めて低い上に、衛生状態も悪い」

 口蹄疫の発生は、ただでさえ食料不足に苦しむ北朝鮮の状況をさらに悪化させている。一般国民からは重要な食料源を、農業関係者からは、農地を耕したり作物を運搬したりするのに必要な「労働力」を奪っている。

 口蹄疫は人間に感染することはまれだが、衣服や排泄物を通してウイルスが広まる可能性はあると、前出の獣医は語る。「感染した牛や豚の肉を食べた人間の排泄物から、感染が拡大する恐れがある」

 しかし、そんな警告も北朝鮮にはほとんど役に立ちそうにない。北朝鮮では多くの国民が食料不足に苦しんでおり、彼らは、食べることができるなら家畜の病気など気にしないだろう。「切羽詰まれば、人は何だって食べるものだ」と、北朝鮮から中国に逃れたある女性は、韓国のラジオ「開かれた北朝鮮放送」で語った。

「ウイルスに汚染されていても肉は肉だ」と、その女性は言う。「殺した家畜をそのまま埋めるなんてもったいない、というのが北朝鮮国民の考え方だ。食べなければ、自分が死んでしまう」

GlobalPost.com特約

[2011年3月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=急騰、S&P500が3月以来の

ワールド

トランプ氏、カタールからの航空機受領を正当化 政権

ビジネス

英中銀政策委員、物価高警戒 「高い上昇圧力」と指摘

ワールド

印首相「パキスタンはテロインフラ排除を」、国際社会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 7
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中