最新記事

犯罪

日本向け極薄コンドームはどこへ消えた?

コンテナから消えた72万個の背景に見えるアジアの一大「闇コンドーム市場」の実態

2011年2月10日(木)16時17分
ブライアン・パーマー

品質が命 偽コンドームには耐久テストもない Wilson Chu-Reuters

 先週、マレーシアから日本に向かっていた極薄コンドーム約72万個が消えた。貨物船が日本に到着した際、コンドームが詰められていたコンテナは空で、鍵が交換されていた。どうやらマレーシアの港へ輸送途中に盗まれたらしい。マレーシアで貨物船強盗はあまり珍しくないが、なぜこんな大量のコンドームを盗もうと思ったのか。一体いくら稼げるというのか。

 良くて数千ドルといったところだろう。盗まれた極薄コンドームは小売価格にすると総額150万ドル相当だが、盗人たちがブラックマーケットでそれほどの金額を稼ぐのは難しいはずだ。

 アジアの合法的な市場で、コンドーム1個の卸売り価格は現在、数セントといったところだ。これがブラックマーケットなら、その卸値はもっと安いに決まっている。闇市場では、品質テストもされていない数百個を有名ブランドの箱に入れた偽造コンドームが1ドルで取引されているのは有名な話。こういった偽物は世界中で見つかっている。

 アジアは、正規品でも偽物でも、世界的なコンドームネットワークの中心地として知られている。年間30億個のコンドームを生産し、世界をリードするタイは、その12%をアメリカに輸出している(アメリカではコンドームはもう大量生産されていない)。

 世界のコンドーム生産国トップ5はすべてアジアの国で、その生産数は合計すると年間116億個になる。イランまでもが、国営工場で年間4500万個のコンドームを生産している。

「漏れ検査」も不合格

 偽コンドームは近年、特に中国で大きな問題になっている。09年に中国当局が摘発した偽コンドーム製造工場は、安価で低品質で植物オイルが塗られたコンドーム200万個を有名ブランドの包に入れて販売、1万1300ドルを稼いでいた。アメリカでも大手コンドームメーカー「トロージャン」の名前で売られていた中国製の偽コンドームが見つかっている。

 利幅がかなり大きいことを考えれば、コンドームのブラックマーケットが生まれても不思議ではない。コンドーム1個を作るコストは2〜3セントだが、アメリカでは平均1ドル12セントで販売されている。デザイナーブランドなら、4ドル以上で売られていることもある。

 とはいえコンドームの品質は適当では済ませたくないもの。

 まともなメーカーなら、一連の品質テストを行っている。テスト用コンドームを吊るして水を入れ、ゴムが破れるまで伸ばす。空気で膨らます「破裂」テストも行い、どれほどの圧力に耐えられるかもテストする。電流を流して穴が開いていないかのチェックは、生産した全コンドームが対象だ。さらにいくつかのサンプルをオーブンに1週間入れて劣化を加速させ、一連のテストを繰り返す。

 これが偽コンドームなら、新品でも「漏れ検査」すらパスしないだろう。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中