最新記事

秘密工作

イラン核科学者爆殺とサイバー攻撃の真犯人

核物理学者の路上爆殺以上にイランの核開発計画に打撃を与えたコンピューターウイルス作戦の黒幕は?

2010年12月16日(木)13時37分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)、R・M・シュナイダーマン、ババク・デガンピシェ(ベイルート支局長)

狙われた核施設 ウイルス「スタックスネット」による攻撃と科学者爆殺は別々の国によるもの?(衛星写真で捉えたコム近郊の核関連施設) DigitalGlobe/Getty Images

 空は、濃いスモッグで覆われていた。出勤途中の人の中には、マスク姿も多い。11月29日の早朝、イランの首都テヘランの北部に位置するアルテシュ通りを、核物理学者のマジド・シャハリアリが妻とボディーガードを乗せて、愛車のプジョーを走らせていた。

 渋滞で停車すると、1台のオートバイが隣に止まった。ここまでは、ラッシュアワーのごく普通の一場面だ。しかし次の瞬間、オートバイの男がある物体をプジョーのドアにくっつけ、そそくさと走り去った。

 磁石で車体に張り付けられた爆弾が破裂し、シャハリアリは即死。妻とボディーガードは、けがをしただけで命に別条はなかった。完璧なピンポイントの爆殺だった。

 この数分後、数キロほど離れたテヘランの路上で、また別のイラン人核物理学者の乗る車の隣にオートバイが止まった。

 車の中の人物は、フェレイドゥン・アッバシ。イラン革命防衛隊のメンバーで、以前、国連安保理の対イラン制裁決議で「核関連、もしくは弾道ミサイル関連の活動に関わっている」と名指しされた人物だ。危険を察したアッバシはすぐに車を降り、同乗していた妻を引っ張ってそばを離れた。爆弾が破裂したのは、そのすぐ後だった。

 2人のイラン人核物理学者が襲われたこの朝、イランの核開発計画を自国の生存に対する脅威と見なす人が多いイスラエルでも、公の場で祝福の声を上げた人物はいなかった。犯行声明を発表した勢力は今のところない。しかし、どの勢力も関与を否定しているわけではない。

 同じ朝、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、対外情報機関モサドの長官を8年間務め、対イラン秘密工作を指揮してきたメイル・ダガンが退くことを発表した。イスラエルのあるタブロイド紙は、こんな見出しを掲げた。「ダガンによる最後の一撃か?」

 この日の午後、テヘランでは予定より2時間遅れてマフムード・アハマディネジャド大統領の記者会見が始まった。科学者暗殺に「シオニスト(ユダヤ民族主義者)体制と欧米政府が関与していることは間違いない」と、彼は主張した。

 それだけでなくアハマディネジャドは、ウラン濃縮施設の高速遠心分離機がサイバー攻撃によりダメージを被っていたことを初めて認めた。数日前までイランの高官たちは、遠心分離機に問題はないと言っていた。...本文続く

──ここから先は15日発売の『ニューズウィーク日本版』 2010年12月22日号をご覧ください。
<デジタル版のご購入はこちら
<iPad版、iPhone版のご購入はこちら
<定期購読のお申し込みはこちら
 または書店、駅売店にてお求めください。

他にも
■「モサド、脅迫と暗殺の黒い歴史」など、読み応え満点です。
<最新号の目次はこちら

[2010年12月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中