最新記事

朝鮮半島

北朝鮮を見捨てない中国の真の思惑

2010年11月29日(月)18時08分
エーダン・フォスター・カーター(リーズ大学名誉上級研究員)

ドイツ型を目指さない中国の選択

 日本、ロシア、韓国など他の国々が手を引いていくなか、中国だけは北朝鮮を保護するつもりらしい。「中国は北朝鮮が崩壊して国境地帯が不安定化し、大量の難民が流入することを恐れている」という趣旨の解説をよく聞くが、中国の行動の動機はそれだけではない。中国は長期的な戦略を意識して行動する国だ。

 20年近く前に中国と韓国が国交を開いて以来、中韓の貿易やその他の結びつきは極めて深くなった。中国は韓国の最大の貿易相手国であり、最大の対外直接投資先でもある。

 普通に考えれば、中国にとって賢明な道は北朝鮮を放置して自壊させ、東西ドイツ統一のときのように韓国に北朝鮮を吸収させること。その上で、新しい「統一朝鮮」がアメリカの庇護の外に出るよう誘い出し、中立化させればいい。

 しかし、中国はこの道を選ばなかった。ブッシュ政権時に国家安全保障会議(NSC)のアジア担当部長を務めたビクター・チャが指摘しているように、中国は最近になって、南北朝鮮の統一が自国の国益に根本的に反するという戦略上の判断を下したようだ。

チャイナ・プランですべてが進む

 中国は独自の優先順位に従って動き始めている。おそらく中国政府は、北朝鮮が挑発的な行動を取ることをある程度認めるだろう。中国に見捨てられていないと、金親子を安心させるためだ。

 ただし、いくつか注文もつけるだろう。第1に、北朝鮮に金をつぎ込む前提として、国内システムの立て直し――実質的には市場経済原理の導入を求める。

 第2に、「ならず者国家」的な行動を(直ちにではないにせよ)やめるよう求める。具体的には、核実験の中止と将来的な核放棄だ(それと引き換えに中国が北朝鮮の安全を保障するかもしれない)。

 北朝鮮もほんの少し頭を働かせれば、自分たちにパトロンが必要だと分かるはずだ。中国の「衛星国家」となるのは屈辱かもしれないが、国や体制が存在しなくなるよりはましだろう。

 世界が描いている理想とは違うが、そもそも他の国々にできることはほとんどない。北朝鮮を21世紀の世界に適応できる国に変革させるという骨の折れる仕事は、中国に任せておけばいい。中国がその仕事に忙殺されれば、中国の台頭を警戒している国にとっても好都合かもしれない。

 国連安保理決議や制裁発動を繰り返して、6カ国協議を行い、アメリカが空母を派遣しても、北朝鮮の態度は変わらなかった。その点、中国にはプランがある。あくまでも中国本位のプランではあるが、他国に反対されても方針は変えないだろう。世界が中国のやり方を受け入れる以外にないのだ。

Reprinted with permission from Foreign Policy, 29/11/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

歳出最大122.3兆円で最終調整、新規国債は29.

ワールド

トランプ政権、元欧州委員ら5人のビザ発給禁止 「検

ワールド

米連邦地裁、H─1Bビザ巡る商工会議所の訴え退ける

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡 ガス漏れか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中