最新記事

外交

インドをないがしろにするオバマの過ち

アフガニスタン戦争のためパキスタンを偏重するオバマだが、経済的にも地政学的にも重要なのはインドのほうだ

2009年11月25日(水)10時44分
ファリード・ザカリア(国際版編集長)

大切な人 初めてアメリカを公式訪問したシン(11月23日、ワシントン) Jim Young-Reuters

 バラク・オバマ米大統領は、この数カ月ほど中国とロシアにペコペコし過ぎだと批判を受けてきた。だがそれはこれまでのところ、あくまでムード作り的なものに過ぎない。オバマ政権はいずれの国に対しても、一方的に実質的な譲歩をしたことは一度もない。中露両国、とくに中国と強い関係を築くことは、長期的な国益に資するという戦略的な視野に沿った外交だ。

 だがおかしなことに、アジアで台頭するもう1つの大国、インドとの関係では、こうした戦略的視点が完全に見失われている。

 ある意味、米政府はインドに対して極めて友好的だ。インドのマンモハン・シン首相は今月23日、オバマ政権になって初めてアメリカを公式訪問。歓迎式典では、2つの巨大な民主主義国家の関係について耳障りのいい言葉が繰り返された。だが水面下には、両国関係への不安が広がっている。

 インド政府関係者は、21世紀におけるインドの役割に関するオバマ政権の考えが、ジョージ・W・ブッシュ前政権と異なることを懸念している。実際、オバマ政権の複数の関係者も公の場で、ブッシュが主導した米印原子力協定を批判している。インドの核開発にお墨付きを与えたこの協定は、インドからすれば大国と認められた重要な証だ。

 インド側はまた、民主党政権が保護貿易主義に走ることや、中国に擦り寄り過ぎることも恐れている。

 こうした心配は、互いに理解が深まりさえすれば消えていくだろう。だが、より尾を引きそうな危険もある。アフガニスタン戦争に気を取られるあまり、オバマ政権が色眼鏡を通じてしか南アジアを見ていないことだ。

 米政府は、アフガニスタン戦争でパキスタンの協力を取り付けたいあまり、パキスタンの関心事を自分自身のもののように考える傾向があり、そのために地域観が歪んでしまっている。

インドとアメリカの利害は一致する

 アフガニスタン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官は「アフガニスタンでインドの影響力が高まれば、地域の緊張を高め、アフガニスタンやインドでパキスタンが何らかの対抗措置を取る可能性がある」と警告した。

 だが、この警告は的外れだ。インドは南アジアの覇権国家で、インド亜大陸に強大な影響力をもっている。GDP(国内総生産)はアフガニスタンの100倍だ(誤植ではない)。

 従って、2001年のタリバン政権崩壊に伴いアフガニスタンが国際社会に門戸を開いたとき、国内にインドの料理や映画や資金が流れ込んだのは自然の成り行きだ。メキシコにアメリカの産品が流れ込み、影響力も強まったように。

 インド政府によるアフガニスタン支援も、多くは学校やインフラの整備に向けられている。インド政府はアフガニスタン政府への影響力を強めようとはしているが、米政府当局者によればインドの諜報機関はアフガニスタン内での行動を自重しているという。

 インドが自らの大陸から消え去るはずはないし、アメリカはそれを望むべきでもない。実のところ、インドの政策目標はアメリカの利害と一致する。それは、タリバンを倒し、選挙で選ばれたアフガニスタン政府を後押しすることだ。

 一方、パキスタンの目標は米政府の利害と一致しない。パキスタン政府はこれまで長い間、アフガニスタンに親パキスタン政権を樹立する権利があると主張してきた。アジア専門家セリグ・ハリソンは88年のインタビューで、パキスタンのモハマド・ジアウル・ハク元大統領は「自分たち好みの政権」をアフガニスタンに作ることを要求していたと指摘している。

 昨年にはパキスタン軍高官がマイク・マコネル米国家情報長官(当時)に、パキスタンはアフガニスタンのタリバンを支援すべきだと言った。「そうでなければインドが支配することになる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げ含め金融政策の具体的手法は日銀に委ねられるべ

ワールド

香港火災、警察が建物の捜索進める 死者146人・約

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持の右派アスフラ

ビジネス

債券市場の機能度DI、11月はマイナス24 2四半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中