最新記事

政治

世界で一番ハチャメチャな国会はどこ?

オバマへの「嘘つき」発言なんて序の口。暴言、格闘、何でもありの世界各国の国会事情

2009年9月18日(金)17時16分
ジョシュア・キーティング

肉弾戦 韓国の民主主義は格闘技と一緒(07年12月の国会) Han Jae-Ho-Reuters

 医療保険改革法案の早期成立を訴えるバラク・オバマ米大統領の議会演説に、「嘘つき」とヤジを飛ばした共和党のジョー・ウィルソン下院議員に対し、下院は9月15日けん責決議を行った。しかし世界を見渡せば、ウィルソンのヤジとは比べものならないほど荒れた国会はこんなにある。

■韓国 

●背景 韓国では、民主主義は格闘技と化す。外交政策から報道の自由にいたるまで、与党ハンナラ党と野党勢力が交わす議論はげんこつ――または議場にある鈍器――を使った戦いで解決されることがある。

●注目の事件 韓国の乱闘騒ぎが初めて国際的に注目されたは2004年、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の弾劾決議案が審議されたときだ。大統領を擁護する議員が、弾劾決議を阻止しようと議会の壇上に居座ろうとした。動かない議員たちを警備員が追い出そうとすると、議員はパンチを繰り出し、物を投げて抵抗し、乱闘が始まった(一方で、何者かが乗った車が国会議事堂の建物に突っ込んだ)。議員たちはその後、ひざまずいて国民に陳謝した。

 しかしこれはほんの序の口だ。08年8月にはアメリカとの自由貿易協定の交渉をめぐり、さらなる騒ぎが起きた。ハンナラ党が自由貿易協定に関する法案を議会委員会に提出すると、反対する野党議員がハンマーや電気ノコギリを使って施錠された委員会室に押し入ろうとした。

 恐れをなした議員たちは、机や椅子でバリケードを築き、突入しようとする野党議員に消火器で応戦。顔面から流血する議員の姿はテレビカメラを通して世界中に流された。野党勢力が12日間も議事堂を占拠した後、ようやく与野党の和解が成立した。

 それでもまだ、流血好きな韓国議員は満足しなかったようだ。今年7月、放送局の民営化を目指したメディア法の改正審議は、またしても乱闘騒ぎに発展した。

■台湾

●背景 議会乱闘の今のトップは韓国かもしれないが、長い伝統を誇るのが台湾だ。その始まりは80年代初頭にさかのぼる。懸案の問題に関して国民党が歩み寄りを見せず、民進党が乱闘を起こすというのがたいていの筋書きだ。そうした騒ぎは、メディアで大きく報道されることがあらかじめ計算されている。民進党にとっては、一種の交渉戦術だ。

●注目の事件 選挙制度の改正や対中政策までさまざまな問題が乱闘を引き起こすが、多いときには50人の議員が殴り合い、靴や水、食べ物、マイクを投げ合う。最悪のケースでは、女性議員の顔を殴った議員が6カ月の停職処分になっている。

 05年5月には、中国との航空便開設に関する法案を支持する国民党議員が、法案の書かれた紙を女性議員の口に突っ込む騒ぎが起きた。その数カ月後、ある国民議員が民進党の議員3人に床に押し付けられ、棒でめった打ちにされる事件が発生。この議員は顔面を100針以上も縫うけがを負わされ、入院した。議場に入る前に、議員はアルコール探知機を通るようにすべきだと提案した閣僚もいた。

 台湾議会の乱闘はアジアで笑いのタネになり、特に中国メディアは喜んで報道した。08年の選挙に敗北して政権を退いた民進党は、議会での乱闘が台湾のイメージを損なったとして、今後は行わないことを公式に誓った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 27年6月適用開始=

ビジネス

米耐久財受注、10月は2.2%減に反転 コア資本財

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中