最新記事

アルジェリア

アフリカを侵食するアルカイダの脅威

アルジェリアの天然ガス関連施設を襲ったテロリスト集団は、リビアからマリのアルカイダ系組織に流出した武器を使っていた

2013年1月24日(木)15時49分
プリヤンカ・ボガーニ

新たな危険 独裁者を倒したアラブの春が中東・アフリカの治安を悪化させた、指摘したクリントン Kevin Lamarque-Reuters

 アルジェリアの天然ガス関連施設で起きた外国人労働者の人質・殺害事件は、リビアのカダフィ政権崩壊と関係がある――ヒラリー・クリントン米国務長官がこう指摘した。

 クリントンは23日、リビア東部ベンガジの米領事館が襲撃され、クリストファー・スティーブンス大使ら4人が殺害された昨年9月の事件をめぐる上下両院の外交委員会の公聴会で証言。その中で、リビアのカダフィ政権崩壊と、隣国アルジェリアやマリにおけるテロ組織の活発化は関係があると明言した。

 「(人質事件を起こした)アルジェリアのテロリストが、リビアから武器を入手したことは間違いない。マリの『イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM)』がリビアから武器を入手していることは間違いない」と、クリントンは語った。AQIMは北アフリカを活動地域とするアルカイダ系の国際テロ組織だ。

 米ABCニュースによれば、アルジェリア人質事件の首謀者モフタール・ベルモフタールは11年11月に、リビアのカダフィ大佐の武器庫から盗まれて闇市場に流れた武器が、部下の兵士たちの「役に立っている」と語っていたという。

マリがテロリストの隠れ場所になる危険も

 クリントンは公聴会で「マリは民主主義を進展させてきた。しかし残念ながら、軍の下位将校による軍事クーデターが起き、国が不安定化した」と語った。

 クーデターの背景には、遊牧民トゥアレグ人の動きがある。トゥアレグ人はリビアで傭兵として雇われていたが、11年のカダフィ政権崩壊後にリビアを出国。大量の武器を持ち出して、マリにやって来た。彼らはマリのトゥアレグ人反政府勢力に合流して、マリ政府軍と交戦。この戦いにおいて装備が不十分なことや政府の対応に不満を募らせた軍が、昨年3月にクーデターを起こしたのだ。

 マリが不安定化したのは、AQIMがマリ北部に拠点を築こうとしていた時期と重なる。「これは非常に深刻な、継続的な脅威になり得る」と、北アフリカの治安情勢とAQIMの台頭についてクリントンは言う。「われわれは大変な戦いに直面するだろう。しかしこれは必要な戦いだ。マリが(テロリストの)安全な隠れ場所になるのを許してはならない」

 ニュースサイト、グローバル・ポストの記者で現在マリにいるトリスタン・マコネルは、今のアフリカではAQIMの注目度が高いが、アフリカのアルカイダ系武装組織はほかにもあると指摘する。「過激派グループの連合が昨年、マリ北部を制圧した。その連合にはAQIMのほか、アンサル・ディーン、西アフリカ統一聖戦運動(MUJWA)が含まれる」。これらの組織はナイジェリア北部で活動するイスラム武装組織ボコ・ハラムと関係があると、アメリカなどはみているという。

 マコネルによれば、彼らはアルカイダの関連組織でその影響を受けているが、活動の根源にあるのはマリの人々の不満や民族主義だ。しかしここ数カ月の動きをみると彼らは国を超えて、周辺地域や世界にとっての脅威になりつつある。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米フィンランド首脳が会談、北極の安保強化に砕氷船取

ワールド

NATO、スペイン除名を検討すべき 国防費巡り=ト

ワールド

トランプ氏、12日に中東に出発 人質解放に先立ちエ

ワールド

中国からの輸入、通商関係改善なければ「大部分」停止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 5
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 6
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 7
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 8
    米、ガザ戦争などの財政負担が300億ドルを突破──突出…
  • 9
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 10
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中