最新記事

米大統領選

ロムニー効果でモルモン教に理解広がる?

一部では理解不能と言われた宗教団体から大統領候補が出て、教会はてんやわんやの大騒ぎ

2012年7月26日(木)15時01分
ミシェル・コトル

非常態勢 一躍世界の注目を浴びるモルモン教会の本部(ユタ州ソルトレークシティー) George Frey-Reuters

 ミット・ロムニーが共和党の大統領候補に決まって戦闘モードに入ったのは、オバマ陣営だけではない。モルモン教会(末日聖徒イエス・キリスト教会)の広報チームもそうだ。

 モルモン教は着実に信者を増やし、今や主流派の宗教の仲間入りをしつつあるが、それでもまだ、部外者には理解不能な宗教団体と見なされがち。しかし、その信者がアメリカの大統領になるかもしれないとあって、一躍モルモン教に注目が集まっている。降って湧いた騒ぎに、教会側は大わらわだ。

 ユタ州ソルトレークシティーにある教会の広報部はメディアの取材対応で手いっぱい。責任者のマイケル・オッターソンによると、問い合わせ殺到で人員の補充を強いられたという。

 報道陣は礼拝に集まる信者に付きまとい、信者の家まで押し掛ける。オッターソンによれば、選挙関連以外の教会のPR活動は縮小せざるを得ず、広報スタッフはやけ気味で、睡眠時間の少なさを自慢し合っている。

 オッターソン自身も先日、ワシントンで開かれた昼食会に参加し、政治ジャーナリストたちと語り合った。選挙戦が進むなか、モルモン教についての「神話」を崩すのが自分たちの使命だと、オッターソンは言う。「まずは対話。話をしなければ分かってもらえない」

 08年の大統領選でロムニーが共和党候補に名乗りを上げた当時に比べると、アメリカの報道関係者のモルモン理解はいくらか進んでいる。オッターソンによれば、今でも一夫多妻を認めているのかといった「ばかげた質問」はなくなったらしい。

 一方、欧州メディアの報道は相変わらずで、あからさまにモルモン教を嘲笑するものもある。「私もイギリス人だから分かるが」と断ってオッターソンは言う。「多くのヨーロッパ人、特にイギリス人はアメリカ人を見下している。フランス人やドイツ人もそうだ。しかも欧州の記者の多くは世俗的な家庭で育ち、宗教に拒否反応を示しやすい。多様な宗教や考えが共存するアメリカ社会の懐の深さも、彼らには理解しにくい」

 いずれにせよ、メディアに訴えたいのは「教会が政治的に中立」だということ。「特定の政党や候補、公約を批判するような発言に誘導されないよう注意しなければならない」

 そのためにオッターソンは予防線を張っている。例えば、ロムニーの名は決して口にしない。どうしても避けられないときは「その候補者」と言う。

 ロムニー個人に関する質問には、モルモン教の教義や慣行についての一般論で答えるようにしている。ロムニーが「ビショップ」だったことについて聞かれても、モルモン教に聖職専従者はいないと説明するだけだ。

 ロムニーが大統領になったらと水を向けると、オッターソンは勘弁してくれという顔で言った。「こんな過熱報道、永遠には続かないだろう」

 とはいえ、注目度のアップが教会にプラスなのは間違いない。「10年か20年前まで、多くの人はモルモン教を怪しげな宗教と思っていた。でも今は、ぐっと身近になったはずだ」

[2012年7月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中