最新記事

社会学

「SNSが孤独を招く」の嘘

2012年6月20日(水)16時39分
エリック・クリネンバーグ(ニューヨーク大学教授)

 だが私たちの多くにとって、フェイスブック上の友人は現実社会の人付き合いの「代替品」ではなくおまけみたいなものだ。カチョッポら孤独の問題に詳しい心理学者で、現代人がネットを介した他者との交流に「本物の不在を完全に埋め合わせる」ことを期待していると考えている人などいない。

 私はカチョッポにコメントを求めた。すると彼は「アメリカ人が今ほど孤独だったことはない」というマーシュの説は支持しないと述べた上で、「その傾向が最近特に進んでいることをはっきりと示すような証拠もない」と語った。

 マーシュは「以前よりも人に直接会う機会が減り、人々が集まる機会も減っている。集まったところで、人と人とのつながりの意義や居心地のよさも以前より薄れている」と主張する。そしてその根拠として「85年に大事な問題を話し合える相手が1人もいないと答えたのはアメリカ人の10%にすぎなかったが、04年には25%になっていた」という調査結果を挙げる。だがこの調査、同じ分野の他のあらゆる調査と結果が食い違っており、人間関係を研究している一流の社会学者からは信頼されていないといういわく付きのものだ。

 カリフォルニア大学バークレー校のクロード・フィッシャー教授(社会学)も、現代アメリカ人の孤独化が急速に進んでいるとの見方には懐疑的だ。新著『今もつながっている』の中でフィッシャーは、過去40年にわたる社会調査を基にアメリカ人の交友関係の質と量が、インターネット到来以前と現在とでほとんど同じであることを示した。

 アメリカ人は孤独になってなどいないし、人間関係が希薄になったわけでもない。この事実の前では「アメリカ人が孤独なナルシシストの集団になったのはフェイスブックのせいだ」との説を証明するのは困難だ。

 百歩譲って仮に孤独な人々の割合が史上最高のレベルに達していたとしても、この説が証明されたことにはならないだろう。複数の専門家が指摘するとおり、現実の生活で孤独を感じている人々は、フェイスブックの中でも孤独だろう。その一方で、人間関係が豊かな人はフェイスブックでも孤独ではないだろう。

「新たな孤独」を生んだ?

 マーシュの論考の中には「フェイスブックは道具にすぎない」とカチョッポが指摘するくだりがある。「こうした技術をうまく使えば、私たちはさらなる孤独ではなくさらなる融合に向かうことができる」。マーシュも「フェイスブックやツイッターや小規模なソーシャルメディアが私たちに孤独をもたらしたのではないことは明らかだ」と認める。フェイスブックのせいで現代人が孤独になったという説を、この時点ではマーシュ自ら否定したように思える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ソロモン諸島、新首相に与党マネレ外相 親中路線踏襲

ワールド

米UCLAが調査へ、親イスラエル派の親パレスチナ派

ワールド

米FTC、エクソンのパイオニア買収を近く判断か=ア

ビジネス

インタビュー:為替介入でドル160円に「天井感」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中