最新記事

銃規制

銃乱射で勢いづく銃支持派の狂った論理

銃乱射の犯人を拳銃片手に取り押さえて英雄に祭り上げられた男は、もう少しで無実の人を殺すところだった

2011年1月12日(水)16時51分
ウィリアム・サレタン

混乱の現場 銃乱射の事件現場からドクターヘリへと被害者を運ぶ人々(1月8日、アリゾナ州トゥーソン) Reuters

 アリゾナ州トゥーソン郊外で起きた銃乱射事件の教訓を生かし、アメリカは銃規制を厳格化すべきだろうか──まさか!

 個人が銃器を持つ権利を保障した憲法修正第2条を支持する人々は、銃乱射事件をそんなふうには捉えていない。銃を手にして乱射事件を引き起こすイカれた奴らに立ち向かうためには、こっちもますます銃を増やして彼らを止めなければならい、というわけだ。

 91年にテキサス州キリーンのレストランで発生した銃乱射事件では、23人が死亡。店の客の1人は銃を持ち合わせていたものの、「馬鹿げた法規制のせいで」店内に持ち込めず、外の車に置きっぱなしになっていた。

 バージニア工科大学での07年の銃乱射事件では、32人が死亡。学内に銃を持ち込んではいけないという大学の「バカ正直な」決まりのせいで、教室にいた学生たちの誰1人として銃を所持していなかったからだ。銃さえあれば命が救えたのに......という理屈らしい。

 この考え方で今回の乱射事件を見たとき、銃支持派は何と言うだろうか。「もっと銃を導入せよ」と言うに違いない。

 アリゾナ州は既に、許可がなくても銃器を隠して持ち歩くことを認めている。州議会はこの権利を強化するためさらに2つの法案を検討しているし、アリゾナの市民団体は政治家やスタッフに銃器の取り扱い訓練を提供する州法を制定しようと活動を始めている。

全員が銃を持てば誰も死なずにすむ

 彼らはそれを、今回の事件で重体に陥ったガブリエル・ギフォーズ議員と亡くなった側近の名をとってギフォーズ・ジマーマン法と呼んでいる。「全ての人が銃を持ち歩けば、誰も犠牲者にならずにすむ」と、銃支持派の同州議員は言う。アリゾナ以外の州でも、少なくとも2人の連邦議会議員は、自らの選挙区に出向くときに銃を携帯するだろうと発言している。

 この議論の広告塔として突如躍り出たのが、ジョー・ザムディオ――今回の銃乱射事件の「英雄」だ。ザムディオは事件が起きたとき近くのドラッグストアに居合わせた。彼はたまたま拳銃を所持していた。

 彼は事件現場に駆けつけ、犯人を取り押さえるのに協力。テレビは彼の勇気を称え、銃支持派のブログは彼の英雄的行為は銃を所持していたからこそ可能だったと書きたてた。「持っていた銃が僕の背中を押してくれた」と、ウォールストリート・ジャーナル紙は見出しにうたっている。

 ザムディオは勇敢な行動を取った、だから銃を所持することは正しい――銃支持派はそう主張するだろうが、彼らの意見を受け入れる前に、この一件の全貌を知っておく必要がありそうだ。

 ザムディオがワイドショーで語ったところでは、彼は上着のポケットに入れた銃に手をかけながら現場に向かい、銃を持った男を見つけて「銃を置け!」と叫んだ。だがその男性は、犯人と格闘して銃を取り上げた人物だったのだ。「もし撃っていたら、大変な間違いを犯すところだったね」と記者に指摘され、ザムディオはうなずいた。「僕はとても幸運だった。ものの数秒で決断しなければならなかった」

 さらに銃の訓練を受けたことがあるのかと問われ、ザムディオはこう答えた。「幼い頃に父に拳銃を与えられて育ったから、銃の扱いは慣れている。軍隊やプロのトレーニングを受けたことはない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中