最新記事

環境汚染

救出はペリカンをもっと苦しめるだけ?

BPの原油流出事故で野鳥の救出活動が続けられているが、安楽死させたほうが人道的との見方も

2010年6月9日(水)18時17分
ジェニーン・インターランディ

2度目の地獄 野鳥にとって洗浄作業は油まみれになるのと同じくらいの苦痛を伴う(6月7日、ルイジアナ州フォートジャクソンの救護施設) Sean Gardner-Reuters

 数としては、まだ決して多くない。米メキシコ湾の原油流出事故による自然界への影響が懸念されるなか、6月6日時点で油まみれになった野鳥が820羽、海亀は289匹が海から引き上げられた。だが、その大半は既に死んでいた。

 今回の事故はアメリカ史上最悪の規模で、油の除去作業も夏までかかりそうなことを考えると、今後も油まみれの野鳥が次々と発見されるのは確実だ。救助に当たる人々は過去の原油流出事故と同じように、何とかして生存する動物を保護し、洗浄しようと試みる。

 しかし、そんな努力に本当に意義があるのだろうか。科学者のなかには首を傾げる者もいる。動物にとって、捕獲され洗浄されるという体験は、油の中に放り込まれるのと同じくらい大きなトラウマ(心的外傷)を招くものだ。保護された野鳥の多くが、生育地に戻されて間もなく死んでしまうという調査結果もある。

 安楽死させるほうが人道的だと考える専門家もいる。「洗浄して元の環境に戻せば、私たちの気分は和らぐかもしれない」と、カリフォルニア大学デービス校の鳥類学者ダニエル・アンダーソンは言う。「しかし、実際にどのくらい野鳥たちのためになるかは分からない。苦しみを長引かせるだけかもしれない」

救出しても長くは生きられない

 鳥の羽は、きれいな状態の場合は水をはじき体温を調整する役割を果たすが、汚れるとそうはいかなくなる。特に油がつくと羽は重くなり風をとらえにくくなるし、羽の断熱性が低下するため暑さにも弱くなる。さらに、羽から油を取り除こうと舐めたりすれば、致死量の炭化水素を摂取する恐れがある。

 捕獲され洗浄されるという体験は、生易しいものではない。保護された野鳥が自然に放された後、元の生息地に戻って再び油まみれになるケースもある。そんな事態を免れたとしても、寿命は劇的に短くなり、繁殖に成功する確率は下がる。

 02年にスペイン沖で重油タンカー、プレステージ号から重油が流出した事故では数千羽の野鳥が救出されたが、そのうち生息地に戻されたのは600羽だけだった。他の鳥はほとんどが、捕獲後わずか数日で死んでしまった。

 生存率は種によって大きく異なるので一概には言えないが、メキシコ湾には命をつなぎとめるのが極めて難しい部類の種が生息している。例えばカッショクペリカンは、絶滅危惧種のリストから昨年外されたばかり。90年にカリフォルニア沖で起きたアメリカン・トレーダー号による原油流出事故では、救出されたペリカンの半数以上が1年以内に死亡。2年後の生存率は15%に満たなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハマスに警告 合意違反継続なら「残忍な

ビジネス

米ワーナー、完全売却の可能性検討 複数の企業が買収

ワールド

ガザ停戦計画は予想以上に順調、米副大統領 イスラエ

ワールド

米ロ首脳、「即時」会談の予定なし=ホワイトハウス高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中