最新記事

米政治

CIAがひた隠す秘密暗殺部隊

2009年7月15日(水)19時28分
マーク・ホーゼンボール、マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

「殺しのライセンス」には疑問なし

 だが9・11テロを機に、CIAの「暗殺」権限をめぐる曖昧な解釈は消えた。01年9月25日、ブッシュ大統領は「アルカイダの息の根を止めるため」、米国史上最も幅広い情報作戦を承認。政府当局者と情報機関は暗殺のターゲットとなるテロリストのリストを作成した。

 ある2人の情報筋によれば、アルカイダ幹部の暗殺計画を猛烈に非難している民主党議員らも計画が違法だと主張しているわけではない。だが、たとえ計画が合法とされていたとしても、暗殺部隊がCIA内部で厄介な存在と見られていた理由は用意に想像できる。

 第1に、存在自体が明らかになる危険性があった。さらに第2に、ターゲットを誤認したり巻き添え被害を生む危険性もあった。モサドの暗殺部隊は、ノルウェーでパレスチナ人テロリストと間違って無実のモロッコ人ウエーターを殺している。

多くの議員がCIAに憤慨しているのは、計画の合法性や合理性が原因ではない。原因は、議会に秘密にされてきたという事実だ。現職および過去の米情報当局者は、CIAが報告さえしていれば議会はテロ組織幹部を暗殺する努力を支持していた可能性が高いと主張する。実際ブッシュ政権もオバマ政権も議会の情報委員会も、無人機を使ってアフガニスタンとパキスタンでテロ容疑者を追跡・殺害する国防総省とCIAの作戦を強く支持してきた。

それでも秘密を死守するCIA

現在の論争を引き起こしてしまった張本人はパネッタ長官だ。パネッタは6月24日、上下両院の情報委員会に「緊急の状況説明」を行い、自分は最近になってこの計画を知り、中止を命じたと説明した。また関係者によればパネッタは、チェイニーがこの計画を議会に知らせないようCIAに命じたことを、その時に明かしたという。

 パネッタは今、元情報当局者や議会のCIA支持者から手際の悪さを非難されている。彼はチェイニーの役割を誇張することでCIA批判派に格好のネタを与えるとともに、ブッシュ時代の過ち(テロ容疑者に対する行き過ぎた尋問手法など)で、すでに集中砲火を浴びているCIAにさらにダメージを与えたというのだ。

 非難の嵐にもかかわらず、計画の詳細は依然としてほとんど明らかになっていない。それは、そうなるようにCIAが最善を尽くしているからだ。ポール・ジミグリアーノ広報官の言葉からも、その努力は伺える。「CIAは計画内容についてコメントしない。計画は現在も重要機密事項だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中