最新記事

台湾半導体

半導体のモンスター企業TSMC、なぜ台湾で生まれ、世界一になれたか

THE FOUNDING FATHER

2022年11月29日(火)16時55分
長岡義博(本誌編集長)
TSMC、張忠謀

瞬間湯沸かし器とも言われる91歳のチャンはTSMCの経営に発言を続けている ANN WANG-REUTERS

<世界シェアは53.4%。現在、米中対立の中でその存亡に黄信号が灯っている。世界が重要視するTSMCを生んだのは「台湾半導体の父」と呼ばれる1人の男だった>

台湾積体電路製造(TSMC)は、世界の半導体製造シェアの53.4%を占める。このモンスター企業はなぜ台湾で生まれ、どうやって世界的企業に成長したのか。

TSMCの創始者は「台湾半導体の父」と呼ばれる張忠謀(モリス・チャン)だ。

1931年に中国浙江省寧波市で生まれ、国共内戦中の1948年、国民党支持者の父親ら家族と共に香港に脱出。その翌年にアメリカに渡り、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で学んだ。

米半導体企業テキサス・インスツルメンツの半導体部門の幹部に昇進したチャンが台湾に移ったのは1985年。半導体産業を育成する工業技術研究院のトップとして招かれ、1987年にTSMCを設立した。

TSMCが世界的な企業に育ったのには2つの背景がある。

1つは政府による後押しだ。70年代の国連脱退とオイルショックでダメージを受けた台湾経済を復活させるため、国民党政府は半導体を基幹産業とする方針を固める。

外国で働く優秀な技術者の受け皿として、1973年に工業技術研究院を設立。工業技術研究院は聯華電子(UMC)など台湾の半導体企業を生む母体となり、チャンもこの国策の一環で台湾に移ってTSMCを創業した。

2つ目は台湾で半導体産業が育ち始めたタイミングで、水平型分業がこの業界に広がったこと。

半導体製造には高度な技術とさまざまな設備、それを維持するための膨大な資金が必要で、時に企業経営を圧迫する。自社の核心技術に資本を集中するため、80年代後半に設計を専門とするファブレス企業と製造専門のファウンドリ企業が生まれた。

半導体企業としては後発だったTSMCは、チャンの判断でファウンドリ企業となることを選択。経営資源を製造に集中したことが結果的に功を奏した。

「下請け」のTSMCが世界から重要視されるのは、その技術力ゆえだ。

半導体は電子回路線の幅が細ければ細いほど性能が向上するが、世界が目指す回路線幅2ナノ(ナノは1メートルの10億分の1)の開発でもTSMCは先行。唯一無二の技術力ゆえ、元請けと下請けの逆転現象が起きている。

中国、アメリカ、台湾を渡り歩く人生を歩んだチャン。彼のつくったTSMCが米中そして台湾経済のキープレーヤーになったのは、歴史の偶然か必然か。

ニューズウィーク日本版 中国EVと未来戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月14日号(10月7日発売)は「中国EVと未来戦争」特集。バッテリーやセンサーなどEV技術で今や世界をリードする中国が戦争でもアメリカに勝つ日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ向けトマホーク承認も ロが戦

ワールド

トランプ氏「ガザ戦争は終結」、人質解放待つイスラエ

ビジネス

主要行の決算に注目、政府閉鎖でデータ不足の中=今週

ワールド

中国、レアアース規制報復巡り米を「偽善的」と非難 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリカを「一人負け」の道に導く...中国は大笑い
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 8
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 9
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 10
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中