最新記事
グリーンスチール

革新技術で挑む鉄鋼業のグリーン化...H2GSが目指すCO2削減95%の挑戦

CREATING “GREEN” STEEL

2024年4月15日(月)11時40分
ジェフ・ヤング

グリーンの基準が不明瞭

そうはいっても、まだ業界ではグリーンスチールの定義さえ定まっていない。そこで必要となるのが、非営利団体クライメート・グループが行っているような活動だ。

同グループで重工業の脱炭素化に関する部門を率いるイェン・カーソンは「私たちの活動の大部分は、鉄鋼1トンを造るのに排出された炭素量について、明確で信頼できる定義を提供すること」と言う。彼女はグリーンスチールの妥当な基準を設定するために、「レスポンシブル・スチール(責任ある鉄鋼)」というステークホルダーのグループと緊密に連携している。

一方の需要側では、気候変動の研究機関であるRMIが鉄鋼業界の顧客と協力し、低炭素鉄鋼の迅速な納入を支援する「サステナブル・スチール・バイヤーズ・プラットフォーム」を組織した。参加企業は環境排出物がゼロに近い鉄鋼を計200万トン購入することを目指しており、マイクロソフトやメルセデス・ベンツなどの優良企業が勢ぞろいしている。

その1つであるボルボは、2030年までに完全な電気自動車メーカーになり、40年までにクライメート・ニュートラル(気候中立=製造工程などで排出する温室効果ガスを、その吸収量やその他の削減量を差し引いて実質ゼロにする)を達成するため、H2GSと長期供給契約を結んだ。

「鉄鋼は自動車の重量の50%を占める」と、ボルボのグローバル・サステナビリティー責任者アンデシュ・カールベリは語る。さらに鉄鋼は、自動車のライフサイクルCO2排出量(製造から使用、廃車までの排出量)の約30%を占めているという。

H2GSがスウェーデン北部でアクセスできる豊富なグリーン電力を、あらゆる鉄鋼メーカーが使えるわけではない。多くのメーカーが環境に配慮するには、「CO2回収・利用・貯留(CCUS)」という言葉で知られる技術のいくつかが必要になるだろう。

カギ握るコストと採算

米イリノイ州に拠点を置くランザテックはCCUSの「U」に着目して技術を工夫した。多くのCCUSプロジェクトが目指すようにCO2だけを回収して単に地中に貯蔵するのではなく、CO2をはじめとする全ての産業ガスを同社の特別な微生物で満たされたタンクに入れるのだ。

「特殊な微生物がガスを消費するので、このプロセスは醸造所のように機能する」と、ランザテックのトム・ダワー公共政策担当副社長は言う。このガス発酵プロセスは、化学製造における貴重な製品であり燃料源にもなるエタノールを生み出す。

「これにより新しい化学のサプライチェーンが生まれる」と、ダワーは言う。CO2や一酸化炭素などの排出ガスを有用な製品に変換することで、製鉄会社の炭素回収コストを下げることができると、彼は考えている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可

ワールド

英仏日など、イスラエル非難の共同声明 新規入植地計

ビジネス

ロ、エクソンの「サハリン1」権益売却期限を1年延長

ビジネス

NY外為市場=円が小幅上昇、介入に警戒感
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中