最新記事
ライフ

なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老後を軽くする脳の使い方

2025年12月19日(金)11時23分
和田 秀樹(精神科医 *PRESIDENT Onlineからの転載)

「学び続けている人」に肩書きは関係ない

たとえば、私は医療者向けのサイトで「和田秀樹は精神科医のくせに、内科のことまで口を出している」などと匿名で批判されることがあります。

たしかに私は医師になって35年以上、精神科医の仕事を続けながら、内科をはじめ他の分野についても学び続けてきました。そのため、一般的な内科医よりも最新の臨床研究の成果や治療ガイドライン、疫学データに詳しいと言われることもあります(産婦人科だけは詳しくありませんが)。


肩書きにとらわれている人は、精神科医が他科に触れることを批判しますが、むしろ私が危惧しているのは、消化器系なら消化器のことしか知らない、循環器系なら循環器のことしか知らない、専門以外に目を向けようとしない医師の存在です。そのほうが、よほど患者さんにとっては危険ではないかと思います。

現代の日本の医療は、臓器ごとに専門特化した診療がスタンダードになっていますが、自分の専門以外を学ばなければ、患者さんの体を総合的に診ることはできません。ひとつの病気や臓器だけに注目してしまうと、複数の分野にまたがる疾患や症状を見逃しやすくなり、それが患者さんの健康リスクにつながるのです。

また、日本では社会に出てからも意識的に学び続けている人はそれほど多くありませんから、肩書きにとらわれずに自分を磨き続けている人は、その分大きな強みを持つことができるはずです。

どれだけ挑戦を続け、どこまで自分を高めていけるのか。そうした姿勢が、その後の人生を前向きにするカギになるはずです。人生は過去の勝ち負けだけで決まるのではなく、その後の生き方次第で流れを変えることができるのです。

「今ある幸せ」を見つめることが重要

さらに、いい大学やいい会社に入れなかったと悔やむ人がいる一方で、「いい大学やいい会社に入ったのに、たいして出世できなかった」と悩んでいる人もたくさんいる、ということも忘れてはいけません。

人はどうしても「自分にないもの」に目を向けてしまいがちです。けれども、ないものばかり数えていても、人生は決して豊かにはなりません。大切なのは過去や他人と比べることではなく、「今あるもの」に目を向けることです。

とくに人生の後半では、「人に負けている部分もあるけれども、これは幸せだな」と思えるものを少しずつ増やしていくこと。つまり、「ないもの」を追い求めるよりも、「今の自分にあるもの」「今の自分にできること」を見つけていくほうがはるかに有益です。

自分の好きな仕事をしている。

心を許せる仲間がいる。

毎日の食事を楽しめる。

心を癒してくれる趣味がある。

そのような「今ある幸せ」をしっかり見つめて大事にすることが、残りの人生を前向きに、心穏やかに生きるためには欠かせないのです。

newsweekjp20251218022411.jpg和田秀樹『医師しか知らない 死の直前の後悔』(小学館新書)(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中