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なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老後を軽くする脳の使い方

2025年12月19日(金)11時23分
和田 秀樹(精神科医 *PRESIDENT Onlineからの転載)

「受験の失敗」を死ぬまで悔やむ必要はない

さらに、若いころの進学や就職の選択を何十年たったあとも後悔している人がいます。

「本当は○○大学に行きたかったのに......。どうして合格できなかったんだろう」「新卒で入社した会社が悪かった。あそこで間違えなければ、その後の人生も変わっていたのに」。


そんな思いを、ずっと心の奥に抱えたまま生きてきた方も少なくありません。もちろん、若いころの失敗を糧(かて)にして「同じ後悔はもう繰り返さない」と前を向いて再スタートを切った方もいます。

しかし一方で、就職やキャリアの選択を誤ったと感じながらも、やり直すきっかけをつかめず、再チャレンジに踏み出せないまま年齢を重ねてしまったという人もいます。

そういう人は、過去の後悔が頭をよぎるたびに「どうせ自分には価値がない」と自信を失い、自分を否定する気持ちが積もってしまうのでしょう。しかし、若いころの受験や就職でうまくいかなかったということは、「何十年も前に、他の人に負けた」とか「チャンスをつかめなかった」というだけのことに過ぎません。

あるいは、経済的な理由や家庭の都合などで希望の進路に進めなかったということで、現在進行形の話ではありませんし、もちろん、その人の欠陥でもありません。

それをいつまでも心に抱え込む必要はないのです。

元首相が語った「人生最大の挫折」

そういえば、岸田文雄元首相は東大合格者数で毎年トップを占める開成高校の出身ですが、東京大学の文科一類(法学部)を3回受験し、いずれも不合格となったそうです。

最終的には早稲田大学法学部へ進学しましたが、本人は受験失敗についてメディアで「人生最大の挫折」と語っているようです(出典:2021年11月24日配信 文春オンライン 「人生最大の挫折」1977年に東大不合格だった開成高校の"がり勉"は、大人になってどうなったのか?《東大合格者数40年連続トップ》)。

けれども、その後の彼は日本の総理大臣になりました。社会的には「成功した人」と言っていいでしょう。にもかかわらず、東大に行けなかったことを悔やんでいるのです。

受験での失敗にいつまでもとらわれるのは、たとえるなら日本一になったプロ野球チームが開幕戦の敗北を引きずっているようなものではないでしょうか。

日本では、この学歴のような形式的評価や肩書きにこだわる人がとても多いのですが、そもそも本当に大切なことは「どの大学を出たか」や「どの企業に勤めているか」ではなく、「世のなかにどれだけ貢献しているか」のはずです。

大学や勤務先などの肩書きが立派なだけでは人の役に立つことはできませんし、どんな職業でも肩書きに安住していたら、社会の変化に取り残されてしまいます。

ですから本来は、社会に出てからどれだけ学び続けてきたのか、どれだけ努力を重ねてきたのか、そしてそれらをどう活かしてきたのかが問われるべきでしょう。

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