新しい学び、成功のコツは講師選び...ヤクザ専門ライターはいかにして運命のピアノの師と出会ったか?
ネットで検索した自宅近くのピアノ教室は百軒以上あった。身近にそんなにも多くの音楽教室があったことに驚いたが、考えてみれば我が家のお隣さんもピアノ教室を経営している。今は大人になった娘さんたちがまだ小さかった頃は、時折、隣から怒声が聞こえてきた。
「うるせぇ、このクソババァ!(パリーン、ガッシャーン)」
数分後、ピアノ教室から怒濤(どとう)のようなピアノが鳴り響く。熱く、激しい演奏だった。通うのは容易だが、お隣さんだけにトラブルとなった場合は根深く後を引く。やはり他の教室がいいだろう。教室の電話番号をプリントアウトし、赤ペンを手に片っ端から電話して質問した。
「『ダンシング・クイーン』が弾きたいんです」
「はい?」
「弾けるようになりますか?」
「ABBAの、ですか?」
先生を選ぶ視点:レッスンの主役は「俺」である
聞き返してくれた教室は半分程度だろうか。たいていは話も聞いてくれず、「無理です」と拒絶された。定型的で面倒な社交辞令を重ねれば、もう少し多くの教室が話を聞いてくれたかもしれない。が、やり方を変える気はなかった。
ピアノの先生に必要な資質はなにか? 音楽を学んだ経験がないので、専門的な知見はない。が、そんなものがなくても、ひとつだけ確実にいえることがある。
これは取材ではない。相手に合わせる必要はまったくない。主役はあくまで俺であり、レッスンは俺が楽しくなくてはならない。
ならば大事なのは人間の相性だ。合わない人間とは、なにをやっても摩擦が生まれる。そもそもボスが欲しいのではない。習い事を通じて我慢強さや服従心を身につけたいのでもない。ピアノの先生と相性が悪ければ、楽しいはずのレッスンでいたくプライドを傷つけられ、地獄のような苦しみを味わうかもしれない。