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市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】

Common Drug Could Prevent Some Cancers From Spreading

2025年3月17日(月)09時35分
ルーシー・ノタラントニオ

「TXA2がT細胞の抑制シグナルになっていることは大発見でした。アスピリンの転移抑制作用に、このようなメカニズムが関与しているとは考えもしていませんでした。まったく予想外の結果で、新たな研究の道が開けました」

また、ロイチョウドリー教授は次のように述べる。


 

「がん治療が進歩しているとはいえ、がんの早期患者でも腫瘍を手術で除去後に再発することがあります。これは、転移したがん細胞が体内に潜伏しているためです。

ほとんどの免疫療法はすでに転移したがんを対象にしていますが、がんが最初に転移したときには、がん細胞が免疫攻撃で特に脆弱になる時が存在します。この『脆弱なタイミング』をターゲットにできれば、早期段階におけるがん再発防止に大きな効果が期待できるでしょう」

また、ヤン博士も「アスピリンや、TXA2経路をターゲットとする他の薬剤は、抗体治療よりも低コストで済む可能性があり、より広く利用しやすくなるかもしれません」と述べる。

今後、研究チームはユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のルース・ラングレー(Ruth Langley)教授と共同でMRC臨床試験ユニットを組み、アスピリンが早期がんの再発を防ぐか、遅らせるかどうかを確認する臨床試験「Add-Aspirin」の結果を分析していく予定だ。

ラングレー教授は次のようにコメントしている。

「この発見は重要です。今後、進行中の臨床試験の結果を解析することで、最もアスピリンの効果がある可能性のある患者の特定に役立つでしょう」


【参考文献】
Yang, J., Yamashita-Kanemaru, Y., Morris, B. I., Contursi, A., Trajkovski, D., Xu, J., Patrascan, I., Benson, J., Evans, A. C., Conti, A. G., Al-Deka, A., Dahmani, L., Avdic-Belltheus, A., Zhang, B., Okkenhaug, H., Whiteside, S. K., Imianowski, C. J., Wesolowski, A. J., Webb, L. V., ... Roychoudhuri, R. (2025). Aspirin prevents metastasis by limiting platelet TXA2 suppression of T cell immunity. Nature, 625(7862).

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