最新記事

教育

勉強する子もしない子も「スマホを触るとバカになる」は本当 7万人調査で判明「スマホと学力」の関係

2022年12月20日(火)16時30分
川島隆太(東北大学加齢医学研究所 所長/脳科学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

ですから「携帯・スマホの使用時間が長いから、学力が低下する」かもしれませんが、「携帯・スマホの使用時間が長いから、睡眠時間が短くなり、そのために学力が低下する」のかもしれません。後者であれば、学力低下の直接の原因は睡眠時間で、携帯・スマホの長時間使用は間接的な原因となるわけです。

こうした問題点を解消しようと、仙台市と私たちのさらなる調査・研究が始まりました。最初にやったのが、仙台市教育委員会と相談のうえで、7万人を超える児童・生徒(小中学生)1人ひとりにID番号を振り、平成26年度調査から追跡できる環境を整えたことです。

子どもたちの成績や、さまざまな生活状況のアンケート結果を含むデータを集めるわけですから、個人情報の厳重な保護が必要です。

そこで「連結可能匿名化」という手法を使いました。私たち大学側の研究者は、ある番号の児童・生徒のデータを1年目、2年目、3年目と追い続けることができますが、その児童・生徒がどこの誰であるかは、一切知ることができない仕組みです。

睡眠時間、学習時間は関係ない...スマホが脳をダメにする

「オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題」携帯・スマホによる学力の低下に私が気づいた平成25年(2013年)の調査から、「10年ひと昔」に近い年月がたとうとしています。

スマホの使用と子どもたちの学力低下について、現時点でわかっているのは、次のような事実です。以下の「スマホ」には携帯電話を含みますが、ご承知のように、すでに携帯の多くがスマホに置き換わっていますので、「スマホ」で統一します。

まず1つ目は、スマホ使用による子どもたちの成績の低下は、自宅での「学習時間」の長さとは直接に関連していませんでした。スマホを長時間使ったから、家での勉強時間が削られ、その結果、学力が低いわけではないのです。

2つ目は、成績低下は、「睡眠時間」とも直接に関連していませんでした。スマホを長く使ったから睡眠時間が削られ、その結果、学力が低いわけでもないのです。

学力低下が先か、スマホが先か(どちらが原因で、どちらが結果か)には、決着がつきました。全員を何年も追跡できたことで、どの時点でスマホを持った、あるいは持つのをやめたとわかり、その後に成績のレベルがどう変わったか観察できたからです。

そして、3つ目は、明らかにスマホが原因で、結果的に学力が低下していました。

これは、学力の低い子どもに長時間使う傾向があったのではありません。スマホの使用時間が長ければ長いほど学力の低下の程度が大きくなったのです。さらには、スマホを始めると成績が下がり、スマホを手放すと成績が上がることもわかっています。

川島隆太

1959年生まれ。千葉県千葉市出身。東北大学加齢医学研究所所長。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。1985年東北大学医学部卒業、1989年東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、同講師、東北大学未来科学技術共同研究センター教授を経て2006年より東北大学加齢医学研究所教授。2014年より東北大学加齢医学研究所所長。2017年より東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長兼務。著書は『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)『さらば脳ブーム』(新潮新書)『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)など、300冊以上。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中