偉大な小説は最初のページで分かる――ダガー賞受賞『ババヤガの夜』翻訳者が語る舞台裏

BLURRING THE LINES OF MYTH

2025年9月19日(金)15時50分
サム・ベット(翻訳者、小説家)

それは、この小説がタイトルに、スラヴ民話で登場する「ババヤガ」を拝借していることからも明らかだ。カタカナ表記なのでババヤガという言葉は外国のものらしく見えるが、響きは日本語のようでもあり、妖しい魅力を持つ物語へと私たちをいざなう。

ババヤガは妖しい魔女だ。森の奥で鶏の足の生えた小屋に住み、気の向くまま魔法で災いを起こしたり、人の命を救ったりする。善でも悪でもなく、ただ強い。

ババヤガの神話を小説のストーリーに結びつけるのは、もちろん新道だ。新道はババヤガの物語を、幼い頃に祖母──「藁(わら)色の髪と青灰色の目」をしたどこの出身とも分からぬ女性──から教わった。

だが新道がババヤガについて語るときはいつも、日本の民話で同様の存在である「鬼婆(おにばば)」の呼び名を使う。

そこに2つの文化がハイパーリンクでつながったような効果が生まれる。タイトルに「ババヤガ」を使うことで、王谷もまた日本と外国の神話の境目を曖昧にする。

私には、『ババヤガの夜』が神話のように思える。過去に根ざし、いま作られるどんな物語とも似ていない。かつて村の広場やたき火のまわりで披露された物語のように、人々を楽しませるように話が展開していく。

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