最新記事
メディア

「英語の先生と体育の先生が結婚します」...アメリカ版「ロイヤルウェディング」に交錯する「一方的すぎる」ファン心理とは?

Taylor and Her Swifties

2025年9月2日(火)15時40分
サラ・スケールズ
トラビス・ケルシーがテイラー・スウィフトにプロポーズの場面

2人がファンとシェアしたプロポーズの場面(スウィフトのインスタ投稿より)。交際を公表した当初から注目を浴び続けてきた ©TAYLOR SWIFT AND TRAVIS KELCEーZUMAーREUTERS

<3400万「いいね!」...テイラー・スウィフトがNFL選手とついに結婚。憧れと親近感、近くて遠い魔力について>

歌手のテイラー・スウィフトとNFL(全米プロフットボールリーグ)選手のトラビス・ケルシーが8月26日に婚約を発表した。

2人がインスタグラムに投稿した写真には、「あなたの英語の先生と体育の先生が結婚します」と記されている。

「アメリカの恋人たち」とも呼ばれる2人に、ファンからは「アメリカ版ロイヤルウエディング」という声も。結婚報告の投稿への「いいね」は3400万件を超える。

【画像】プロポーズ場面「英語の先生と体育の先生が結婚します」(インスタグラム) を見る


スウィフトの恋愛事情は彼女の楽曲の重要なテーマで、メディアでも繰り返し報じられきた。ファンが熱烈な祝福と愛情を注ぐのも当然だ。

では、スウィフトの何が、彼女とファンの関係の何が、これほど感情的な反応を呼び起こすのだろうか。

スウィフトのファンの深い愛情を理解するカギは「パラソーシャル関係」だ。これは主にメディアの有名人に対し、一方通行で築かれる関係のこと。人々がメディアや作品を通じて対象の人物に関する知識や感情を積み重ね、その人との関係を「リアルな」対人関係と同じように認識するようになる。ただし、その関係に相互的発展はない。

ニュースやソーシャルメディアで彼らを見るたびに、彼らの作品に触れるたびに、人々の中でパラソーシャルな交流が繰り返されて、友人として知っているような感情を抱いたり、自分のメンターや意中の人だと思ったりする。

実際、スウィフトのファンはとても情熱的で、彼女はその熱量を巧みに利用している。

昨年12月まで世界を回ったツアーでは、2006年のデビューアルバムから約20年の音楽活動を「エラ(時代)」ごとに区切って演出を凝らした。ファンはいろいろな入り口から彼女の人生に参加して、共に成長し、彼女と彼女の音楽を通じて自分の人生のさまざまな段階を経験する。

多くのミュージシャンはアルバムを発表する間隔が長く、ファンが近しい関係を維持するために必要なパラソーシャルな交流を十分に得られないこともある。

しかし、スウィフトは06年以降、スタジオアルバム11作と再録版アルバム4作をリリース。今年10月に12作目のスタジオアルバムが発売される。また、彼女の著名人との交際や交友関係は頻繁にニュースに登場する。こうしてファンはスウィフトとの親密な関係を育み続けてきた。

newsweekjp20250901070411.jpg

「エラズ・ツアー」は彼女の音楽の時代を巡る旅に(2024年11月、カナダ) AP/AFLO

さらに、彼女のマーケティング手腕や、ミュージックビデオなどのイースターエッグ(隠しメッセージ)の仕掛け、関心を刺激して話題を巻き起こす戦略は、ネットで簡単にアクセスできる世界規模の普遍的なファンコミュニティーの共同体意識と帰属意識を生んでいる。

ファンはスウィフトに、人間らしさや本物らしさを強く感じる。彼女が自分を本当に理解してくれるかのように、自分のことを気にかけてくれるかのように感じるのだ。

ファンではない人には理解し難いだろう。観客動員の記録を次々に塗り替えている、とうてい手の届かない億万長者なのに。

幸せを見守り続ける幸せ

しかし、これこそがパラソーシャル関係の仕組みであり、有名人をまるで個人的な親友のように感じるのだ。

スウィフトはそうした感情を演出し、さらに大きく育てている。ファンを自宅に招いて新アルバムの視聴パーティーを開き、観客をステージに上げるなど、血の通った人間だという感覚をファンに与え、いつか自分も選ばれるかもしれないという幻想を持たせ続ける。

スウィフトの恋愛関係や交友関係は、セレブリティーとしてのイメージの重要な部分を占める。ファンは記事やパパラッチの写真で彼女の恋愛模様を目にし、彼女の楽曲でその関係性を耳にする。愛と失恋はスウィフトの音楽の中心的なテーマだ。

2年前から交際しているケルシーとの関係は、彼女のこれまでの恋愛の中で最も多く報じられた1つだ。俳優のジョー・アルウィンとは6年半以上交際したが、あくまでプライベートとされていた。

スウィフトとケルシーはスポットライトを浴び続け、ファンは彼女の幸せそうな姿と、それを見守っていられることに喜びを感じてきた。

スウィフトは明らかに、ファンのことも彼らとのパラソーシャル関係も理解している。ファンは彼女のソングライティングを崇拝し、以前から「英語の先生」と呼んでいる。彼女の歌詞に詩を感じ、多くのことを学んできたからだ。

スウィフトとケルシーが「あなたの英語の先生と体育の先生」と名乗ったことは、ファンが自分たちに投影している役割を、あえて引き受けたということでもある。

毎日のように顔を見ていて、よく知っている自分の先生同士が結婚するなんて。その喜びが2人をより身近な存在にして、ファンとの距離をさらに縮めるのだ。

The Conversation

Sarah Scales, PhD Candidate, School of Social Sciences, Media, Film and Education, Swinburne University of Technology

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=

ワールド

トランプ氏、健康不安説を否定 体調悪化のうわさは「

ワールド

ウクライナ、ロシアによるザポリージャ原発占領の合法

ワールド

トランプ氏、関税巡り最高裁に迅速審理要請へ 控訴裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中