最新記事

アップル

アップル、モーションキャプチャー技術のフェイスシフトを買収

人の表情を瞬時にCGキャラで再現。『スター・ウォーズ』最新作の視覚効果にも採用

2015年11月27日(金)17時05分
高森郁哉(翻訳者、ライター)

瞬時にCGキャラに PC内蔵カメラで撮影した表情が瞬時にCGキャラで再現される

 アップルがモーションキャプチャー技術の新興企業フェイスシフトを買収したと、米メディアのテッククランチが11月24日に報じた。この買収の噂は、今年9月にマックルーマーズが未確認の情報として伝えていたが、このほどテッククランチの取材に対しアップルの広報担当者が、「アップルは時折比較的小さなテクノロジ企業を買収するが、通常は目的や計画について話すことはない」という定型の表現で買収を認めたという。

 フェイスシフトが開発したソフトウェアは、カメラで撮影している人間の表情を分析し、リアルタイムでCGのアバターの表情に反映させることができる。従来のモーションキャプチャーのように、撮影される人が顔にマーカーを付けたり、立体的に認識するために特殊なカメラシステムを用いたりする必要がないのが特徴で、デモ動画ではPCに内蔵されたカメラで素顔のモデルの表情が瞬時にアバターに反映されていることが分かる。


 フェイスシフトの技術は、「スター・ウォーズ」シリーズ最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(日本では12月18日公開)の視覚効果にも使われている。2011年にスイスで設立された同社は、2013年5月にサンフランシスコのオフィスを開設した際、元ILMエンジニアのダグ・グリフィン氏を雇い入れた。ILM(インダストリアル・ライト&マジック)はジョージ・ルーカス氏が立ち上げた製作会社ルーカスフィルムの子会社で、「スター・ウォーズ」シリーズの視覚効果を担ってきた。時期的にみて、グリフィン氏率いるサンフランシスコのチームが「スター・ウォーズ」最新作の視覚効果制作に関わったと考えられる。
 
 もともとアップル(および故スティーブ・ジョブズ氏)は、「スター・ウォーズ界隈」と浅からぬ縁がある。ジョブズ氏がアップルを離れNeXTを経営していた1986年、ルーカスフィルムのCG部門を買収し、ピクサーと名付けた。ピクサーは世界初のCG長編アニメ『トイ・ストーリー』で大成功を収め、その後もヒット作を連発したのち、2006年にディズニーに買収される(その際ジョブズ氏はディズニーの個人筆頭株主になった)。ディズニーは2012年にルーカスフィルムも買収し、ILMはディズニーの傘下となった。

 この買収を報じたUSAトゥデイの記事によると、2016年は仮想現実(VR)や拡張現実(AR)にとって分水嶺の年になると多くのアナリストが予測しているという。サムスン、ソニー、マイクロソフト、フェイスブックといったテクノロジ大手が今年から来年にかけ、新製品や開発キットをリリースするからだ。

 アップルの広報担当者が言うように、フェイスシフト買収の目的や計画は今のところ分からない。フェイスシフトのデモ動画には、ビデオ通話でCGキャラにユーザーの表情を反映させて相手と話している場面があった。リアルタイム動画を使ったコミュニケーションツールへの応用は十分可能性があるだろうし、映画にからめて想像を膨らませるなら、『スター・ウォーズ』や『モンスターズ・インク』のように多様なクリーチャーが共存する世界観のオンライン仮想空間で、ユーザーがCGアバターを介して表情豊かにコミュニケートするゲームやサービスも楽しそうだ。


[執筆者]
高森郁哉
米国遊学と海外出張の経験から英日翻訳者に。ITニュースサイトでのコラム執筆を機にライター業も。主な関心対象は映画、音楽、環境、エネルギー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、時価総額4兆ドル突破 好調なiPhone

ビジネス

アングル:米財務省声明は円安けん制か、戸惑う市場 

ワールド

イスラエル首相、ハマスが停戦違反と主張 既収容遺体

ビジネス

ユーロ高、欧州製品の競争力を著しく損なう 伊中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中