最新記事

BOOKS

「ブサイク」は救いようがない、と経済学者は言う(たぶん愛をもって)

醜さのデメリットを延々と述べる『美貌格差』は、何を意図して書かれた本なのか

2015年7月10日(金)18時30分
印南敦史(書評家、ライター)

『美貌格差――生まれつき不平等の経済学』(ダニエル・S・ハマーメッシュ著、望月衛訳、東洋経済新報社)は、生真面目な人には向かないかもしれない。自分が生真面目かどうかは別としても、私自身が最初......最初どころか、半分くらい読み進めてもなお、著者の意図を読み取れなかったのだ。

 なにしろ第2章で、美しさは見る人次第だといっておきながら、以後は延々と「ブサイク」のデメリットを展開するのである。美形は誰が見ても美形、どうせなら美形と仕事したい、CEOがイケてるほうが業績はいい、美しさは収入に影響する(美形とブサイクの収入差は男性で17%、女性で12%もあるという)......などなど、いいたい放題。


労働市場では見た目が大事だ。そして経済以外の本当にさまざまな活動でも容姿は大きな役割を果たす。(161ページより)


 社会心理学者たちは、つきあう相手に関する選好や出会いを決める基準について興味を持ち、なかにはそこで容姿が果たす役割を調べた学者もいるのだという。では、経済学者はどうか? 彼らも最近はこの分野に手を出しており、研究に新しい切り口を持ち込んでいるそうだ。だとすれば、著者はその先駆者なのだろうか。

 テキサス大学オースティン校の教授である。専門は人的資本にかかわる応用ミクロ経済学で、そのスタイルは、さまざまな状況を経済学的な観点から検証し、仮説とデータによって検証するというもの。経済学者のあるべきスタンスだともいえるが、そこに美醜の問題を持ち込んだところに特異性があるわけだ。

 それは単純化すれば、よくいわれる「不謹慎」の領域に分類されやすいだろう。しかし、よくよく考えてみれば我々は、口に出すか出さないかは別としても心のどこかで人を外見で判断していないだろうか?

「そんなことしていない」と断言できる人がいたらぜひお会いしたいが、いずれにしても本書はそういう意味で、人間の本質を鋭くえぐっているとも解釈できよう。ただし、その論理が未来に対してどんな効果を生み出すかについては疑問だ。それは本書のラストを読んでもわかる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中