最新記事
BOOKS

【影響力を上げる】ひとりの声が行政に届いた...前橋市が実現した支援の仕組み

2025年3月7日(金)11時30分
河村正剛

これは私にとって大きなチャンスでした。私は2016年1月に世田谷区の保坂区長(当時)にお会いしてから、どこかの首長が動いてくれることを期待していました。そして、今まさに、自分が住む前橋市の市長からアプローチがあったのです。

市長への提案からアイディアが生まれた

山本市長とは1週間も経たないうちに面会を果たしました。そしてすぐに具体的な行動に移りました。地元の児童養護施設の施設長や里親さんたち、市の担当部署の幹部を交えた意見交換会を設定し、そこで2つの具体的な支援策を提案しました。

◎ 15万円の自立支援金の支給(※現在は20万円になっている)
◎ 運転免許取得の費用補助

共に入所している子どもたちが施設を出る際に必要となる支援です。個人で児童養護施設にヒアリングを行っていたときに得た課題を解決するための策でした(103ページ)。

しかし、ここで大きな課題が浮上しました。人口33万人の前橋市で、児童養護施設や里親のもとにいる子どもたちはわずか百人前後。そんな少数の人たちのために市の予算を使うことに対して、市民の理解を得られるのか、という問題です。

税金の使い道として、市民からはもちろんいろいろな要望があります。道路の補修や、市営施設の建て替え、高齢者の福祉など、きりがありませんし、いずれも大切です。一部の子どもたちの支援に税金を使うことへの反発が予想されました。

ここで市長から革新的な提案がありました。ふるさと納税の仕組みを活用してはどうか、というものです。通常のふるさと納税の返礼品は地元の特産品などが主流です。前橋市は違う道を選ぼうというのです。

「返礼品は、子どもたちの笑顔です」

こういうアイディアでした。物質的な見返りのためではなく、子どもたちの幸せのために投資する。この新しい形のふるさと納税の提案は、支援のあり方を根本から変える可能性を秘めていました。

前橋市のふるさと納税では、すでに名産の豚肉などの返礼品も提供しています。そこに加えて、「子どもたちの自立支援」という明確な目的を掲げた寄付枠を設けたことが画期的でした。

自治体を巻き込み「個人の力」を大きく超える

子どもたちの笑顔を返礼品としたふるさと納税の取り組みは、2017年から実施されることとなりました。そして、予想を超える成功を収めました。

初年度は2000万円を超える寄付が集まりました。開始から8年が経過しましたが、今も前橋市の人気寄付先の上位にランクインしています。12月に締め切った2024年度で、その累計寄付額は1億円を突破しました。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=

ビジネス

インタビュー:高付加価値なら米関税を克服可能、農水

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中