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コロナストレス 長期化への処方箋

第2波でコロナ鬱、コロナ疲れに変化、日本独自のストレスも

2020年8月22日(土)12時45分
西多昌規(早稲田大学准教授、精神科医)

普段にない家庭トラブルも

学校教育の場でも、メンタルヘルスの問題は徐々に深刻化しつつある。今年の大学1年生は、入学式も含めて一度もキャンパスに通学したことのない学生である。対面でのリアルなコミュニケーションが全くなく、いきなりオンライン講義で友達をつくれと言われても無理な話だ。

オンラインだけの弊害は、授業やゼミ選択など雑談的なやりとりから得られるリアルな情報の欠如、ずっとアパートや実家の自室に籠もってパソコンを見つめオンライン課題に取り組むだけで一日が終わってしまう不全感など、挙げれば切りがない。

高校生ならば、ただでさえ受験制度の変更に振り回されているところにCOVID-19の混乱である。これに今後は、本人および保護者の経済的困窮や、就職難という負担が加わる。学生たちは、失われる勉学の機会やスポーツの体力、技能、将来のキャリアへの不安にさいなまれている。

これら自粛に伴い、家族と一緒にいる時間が増えており、これもストレスの種となっている。家庭内暴力の増加は諸外国で指摘され、日本においても暴力のような激しいものから、リモートワークのWi-Fiを奪い合ういさかいまで、家庭内のトラブルが増えているように思える。大学生にとっては、地方の実家にいるのもストレスだが、都会の寮やアパートに戻るのも親が難色を示すなど、普段ならば問題にならない家庭ストレスでの悩みも少なくない。

医療・介護においては、今後はバーンアウト(燃え尽き)が懸念される。現に諸外国におけるCOVID-19関連のバーンアウト報告論文数が急増していることからも、今後の日本においても増加することが予測される。

第1波では、医療従事者も緊張感や使命感、義務感からなんとか頑張ることができたかもしれない。しかし、医療従事者への差別・偏見に加え、ボーナスカットなど収入減少なども報道される。物心共に報われないなかで迎える第2波では、バーンアウトや外傷後ストレス障害に似た2次性のストレス障害がより問題化する可能性がある。

バーンアウトの症状としては、何事にも無気力・無感動になる、仕事に対して意欲や重要性を感じられなくなる、相手に対して配慮を欠いた、ぞんざいな対応をしてしまう、などが挙げられる。朝起きられなくなる、急に欠勤や遅刻が増える、頭痛や胃痛など身体症状に加えて、仕事のミスや雑な対応やないがしろな態度、アルコールの量が増えるといった行動もよく見られる。

COVID-19は、災害ストレスでもある。次々に来院・搬送される患者とその対応、自らも感染するのではないかという恐怖、検査を強硬に主張する、あるいは入院や施設入所を拒絶する感情的な患者が一人でもいれば、トラウマ体験となる。いっぱいいっぱいの業務や受け持ち患者が急変した、患者や家族からの強烈なクレームを受けたといったトラウマ的な光景が、日中にもありありと目に浮かんでしまう、あるいはそれで眠れないどころか、夢にまで出てくる、病院を見るだけで体調が悪くなるなど、2次的なストレス障害も今後は問題となっていくだろう。

【関連記事】知られざる日本のコロナ対策「成功」要因──介護施設

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