最新記事

中東

カタールがサッカーW杯2022に巨額投資 宴の後の失速に懸念

2022年5月9日(月)10時10分
カタールの首都ドーハのビル群と自動車

建設ラッシュが続くカタールの首都ドーハ REUTERS/Amr Abdallah Dalsh

サッカーの2022年ワールドカップ(W杯)が開催されるカタールの首都ドーハ。海辺の計画都市・ルサイルでは、砂漠をパリのシャンゼリゼ通りのような大通りに生まれ変わらせる3億ドル規模の建設プロジェクトが進行中だ。その影に隠れるように一軒だけコンビニがある。

ルサイルにはメインスタジアムのほか、超高層ビル4棟や約20万人が入居できるマンション群が建設される。コンビニの店長、ヨウネスさんは、今年11月にW杯が開幕すれば商売が繁盛すると予想しながらも、どこか不安げな面持ちでレジに立っていた。

「W杯後に何が起きるだろうか。商売が悪くなるか良くなるか、私たちには分からない」と話す。

天然ガスが豊富なカタールは、W杯誘致が決まってからの11年間でインフラ整備に少なくとも2290億ドル(約30兆円)を投じた。中東のライバルであるドバイやアブダビの劇的な変化に倣う狙いだ。

カタールはエネルギー依存から脱却するため、経済の多角化を推進。地域のビジネス拠点になり、観光客を2030年までに新型コロナウイルス感染拡大前の2019年から約3倍となる年間600万人に増やす目標を掲げている。

だが、アナリストや学者は、28日間のW杯終了後にその夢がかなうとは考えていない。

カタールは、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など中東のライバル勢との厳しい競争に直面している。こうした国々の市場は既にしっかり根を下ろしており、観光客の種類も多様だ。

小国ながら資金豊富なカタールはそんなことにはひるまず、国際舞台にのし上がるために投資を進めた。建設ブームがピークを迎えた2016年には、国内総生産(GDP)の18%をインフラ建設に支出。過去のW杯開催国よりはるかに多くの資金を投じた。

南アフリカは2010年、W杯に向けたインフラ整備に33億ドルを支出。ブラジルは14年のW杯で116億ドルのインフラ投資を行ったが、プロジェクトの半分は実行されなかった。

しかし、ルサイルは違う。今年4月には600店舗を擁するショッピングモール「プラス・バンドーム」がオープン。パリをイメージして設計され、買い物客は水路からボートで到着、音楽に合わせて吹き上がる噴水を眺めながら屋外で食事ができ、「クリスチャン・ディオール」や「ルイ・ヴィトン」といった高級ブランドの巨大店舗も営業する。

カタールはサッカーの競技場だけでなく、高速道路や地下鉄網、港湾、空港にも多額の資金を投じた。

だが、W杯後には新たな建築物の大半で「閑古鳥が鳴くのではないか」との懸念もある。外国人居住者が流出し、需要が落ち込み、非エネルギー部門経済が減速するかもしれないからだ。

アラブ湾岸諸国研究所(ワシントン)の上級研究員、Robert Mogielnicki氏は、多くのインフラはW杯後に別の目的に転用する必要があると指摘した。

跳躍台

カタール政府高官はロイターの取材に対し、中東で初めてのW杯は、訪問客を呼び込む「マーケティングの跳躍台」になるという政府の見方を明らかにした。

南アフリカでは2010年のW杯をきっかけに観光ブームが始まり、訪問者はパンデミック前の最多となった19年の1020万人まで着実に増えていた。19年には観光業がGDPの10%近くを占めた。当局者らが明らかにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中