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中国人の欲しい物が変わった――アリババ越境ECトップ訪日の理由

2017年8月28日(月)11時14分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

また、中国人が良質な海外旅行体験を求める時代になるなか、ショッピングだけで日程を終えるような旅行は喜ばれなくなっており、体験を楽しむ旅行と買い物を楽しむ越境ECというような"使い分け"の傾向も進んでいるという。実際、日本の空港で中国人観光客を見ても、かつてのように山のような荷物を運んでいる人の姿は減っているように感じる。

越境ECブーム再加速の中、信頼性がひとつのカギに

越境ECブームが再加速するなか、中国各社は独自の取り組みを続けている。上述のネットイース・コアラは豊富な資金力と直営店方式による管理能力を生かし、売れ筋商品を安く、短い納期で届けることで急速に成長を続けている。

追われる立場のTモールグローバルは、海外メーカーとの提携による信頼性を武器に戦う方針だ。今年5月には「全球溯源計画」(グローバル・トレーサビリティー計画)を発表。提携メーカーでの製造から物流、通関、第三者機関での認証などの一連の流れをデータ改編が困難なブロックチェーン技術を利用して確認する計画を打ち出した。

「アジア美容機器パートナーシップ」もこのグローバル・トレーサビリティー計画の一環であり、MTG、日立家電(中国)、ヴォーグインターナショナル、ARTISTIC&CO.、ヤーマンの日系企業5社が参加した。メーカーとのパートナーシップ、ブロックチェーン技術による認証、さらに中国でのアフターサービスの充実など、信頼性を高めることで売り上げにつなげていく狙いがあるという。

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8月3日、アジア美容機器パートナーシップ締結式にて。左からヤーマンの李雨儒APECセールスディレクター、日⽴家電中国の香月隆志社長、Tモールグローバル劉鵬総経理、MTGの中島敬三常務取締役、ARTISTIC&CO.の近藤英雄代表取締役CEO、ヴォーグインターナショナルの山口正志代表取締役(筆者撮影)

信頼性はひとつのカギといえそうだ。日本のネットショップへの中国系決済サービス導入を支援するAURFY JAPANの隰欣代表取締役によると、越境ECが発展した今でも、中国の消費者の間では日本の公式サイトから購入したいというニーズが存在するという。

日本人と同じ物を購入したほうが信頼できるという考えだ。同社は2014年の創業以来、すでに200社以上の日本企業サイトに中国系決済を導入している。

中国の越境EC業界が再加速し、さまざまなプレイヤーがしのぎを削っている今、日本企業もどのパートナーと提携し中国市場攻略を狙うのか、熟慮が求められる時代となった。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。

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