最新記事

日本経済

エコノミスト誌の元編集長ビル・エモット氏「正規・非正規雇用の分断こそ日本の弱点」

労働市場の分断を解決しなければ、日本は家計需要の低迷、生産性上昇の停滞が続く

2016年1月27日(水)18時48分

英エコノミスト誌の元編集長でジャーナリストのビル・エモット氏は、日本の慢性的な家計需要の低迷と生産性上昇の停滞は正規・非正規という労働市場の分断に起因するところが大きいと指摘。写真は都内のビジネス街で2015年11月に撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

 日本経済の低成長の背景にある家計需要の慢性的な低迷と生産性上昇の停滞は、正規・非正規という労働市場の分断に起因するところが大きいと、英エコノミスト誌の元編集長でジャーナリストのビル・エモット氏は指摘する。

 同氏の見解は以下の通り。

労働力不足の今なら改革の痛みは小さい

   日本の経済発展と社会調和にとって、最大の障害は、労働市場の深刻な分断だ。日本の賃金労働者は約60%のインサイダー(正規雇用労働者)と約40%のアウトサイダー(非正規雇用労働者、多くはパートタイマー)に二極化している。

 前者が、高いレベルの雇用保障と福利厚生など賃金・給与以外の経済的利益(ベネフィット)を享受している一方、後者の大多数は低賃金で、そうしたベネフィットも皆無に等しく、不安定な雇用を余儀なくされているのが実情だ。

 日本は迅速に労働法制を調整し、フルタイム、パートタイムに関係なく、働くすべての人が同等の雇用保障とベネフィットを受けられるようにする必要がある。

 むろん、これは、インサイダーにとっては雇用保障のレベルが下がることを意味する。したがって、失業者に対する保障制度の改善や再就職への公的支援の拡充が必要になる。

 ただ同時に、アウトサイダーの権利と雇用保障のレベルを引き上げる必要がある。大企業は当然、こうした変化を阻もうと政治に強く働きかけると思われるが、アウトサイダーの権利を向上させることは、インサイダーの権利を引き下げるのと同じくらい重要だ。

 労働市場の分断を解決しなければ、日本は家計需要の慢性的な低迷、生産性上昇の停滞に悩まされ続けるだろう。そして、増加し続けるアウトサイダーの人的資本は着実に蝕(むしば)まれていく。技能習得にもっと投資しようというインセンティブが、会社側にも個人(非正規雇用労働者)側にも、働きにくいからである。

 日本経済が完全雇用状態にあり、現実として労働力不足に直面しているにもかかわらず、この人的資本の劣化と家計需要の低迷が継続しているということは、労働制度改革の喫緊の必要性について十分な根拠を示している。

 完全雇用と労働力不足の状況下では本来、このような改革に伴う社会的な痛みは小さく済むとも言える。


*ビル・エモット氏は、英国のジャーナリスト。オックスフォード大学モードリン・カレッジ卒業後、同大学のナフィールド・カレッジを経て、1980年に英エコノミスト誌に入社。83年から3年間、東京支局長。93年から2006年まで13年間、同誌の編集長を務めた。「日はまた沈む」「日はまた昇る」など日本に関する著書多数。


 

[東京 12日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意

ワールド

グリーンランドと自由連合協定、米政権が検討

ワールド

パキスタン、国防相が核管理会議の招集否定 インドに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中