最新記事

株価

中国株は世界市場の異変伝える「炭鉱のカナリア」?

サーキットブレーカーが発動されるなど不安定なものの、その影響力は世界市場を大きく揺るがしつつある

2016年1月7日(木)11時51分

1月6日、中国株は世界におけるウエートこそなお比較的小さいものの、その動きは今年の世界市場を大きく揺るがすことになりそうだ。写真は北京で撮影(2016年 ロイター/Kim Kyung Hoon)

 炭鉱で有毒ガスを検知してくれるカナリアか、それとも檻の中に閉じ込められた象か──。投資家から見れば、新年早々に世界の市場を荒れ模様にした中国株は、どちらのたとえも当てはまる。

 悲観派はカナリアに見立てるだろう。年明けに中国で始まった株価急落は、ある地域で起きた出来事がいかに世界中に波紋を広げるかをいち早く把握する上で、警鐘の役割を果たしている。

 一方で楽観派は中国を檻の中の象とみなす。つまり存在を無視することはできないが、国内市場はきっちり統制され、外国人投資家の関与はおおむね遮断されているので、世界的な投資環境に大きな影響を与えるはずはないという。

 もっとも今週の状況を何らかの手掛かりとみれば、中国株は世界におけるウエートこそなお比較的小さいものの、その動きは今年の世界市場を大きく揺るがすことになりそうだ。

 実際に4日には世界中で多くの主要株価指数が、年明けとしては何年も目にしたことがない大幅な下落率を記録した。そして投資家が一番の売り材料としたのが、7%という中国株の急落だった。

 中国の金融市場の基盤の弱さや当局の支援能力、マクロ経済の健全性をめぐる不安は、今に始まったことではない。昨年夏にも中国を震源地として世界的な株安が発生している。ただ、4日の下落率と世界全体が被った影響度は投資家の想定を超えてしまった。

 BMOプライベート・バンクのジャック・アブリン最高投資責任者は「中国政府が介入するたびに世界の市場は下げる傾向がある。投資家は絶望を感じている」と話した。

 過去1年で見ると、上海総合指数が1日で5%ないしそれ以上下落したのは計12日。このうち米S&P総合500種が連動して下げたのは9日で、昨年8月24日には上海総合指数が8.5%下がり、S&Pも3.9%安となった。

 ただ、9日中4日はS&Pの下落率が0.5%未満にとどまり、別の3日は横ばいか上昇している。

 また昨年後半は米連邦準備理事会(FRB)の利上げや欧州中央銀行(ECB)の追加緩和が次第に主要テーマとなるにつれて、中国をめぐる懸念が次第に後退していった局面もあった。

 それでも恐らく今後数カ月、FRBとECBには何の動きもなさそうなので、市場の関心は再び中国に向けられた。

 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのマネジングディレクター、アンドルー・ウィルソン氏は「われわれ(の目)はまた中国へと戻った。ボラティリティの大きさは懸念される」と述べた。

中国経済の重み

 最近のロイター調査によると、今年の米国株にとって最大の懸念材料として中国を挙げたのはストラテジスト31人中7人にすぎない。別の5人は最大の懸念を世界的な景気後退もしくは景気減速と答えた。

 投資家にとって厄介なのは、中国経済と中国株の動きを区別しなければならないことだろう。もちろん長期的に見れば両者の相関度は高いが、過去数年単位ならそうではなかった。

 上海総合指数は昨年6月までの1年間に150%上昇した半面、同時期に中国の成長率は7.4%から7%に鈍化した。昨年全体では中国株は急落場面がありながらも10%上がったのに、景気減速が止まる兆しはまったく見えない。

 ピクテ・アセット・マネジメントのチーフストラテジスト、ルカ・パオリーニ氏は「中国経済の世界におけるウエートは、中国株のそれに比べてずっとずっと大きい。私は中国市場のボラティリティを今年の主要リスクとみていないが、中国経済(の悪化)が米国や欧州の経済に伝染するようなら、事態の危険性ははるかに高まる」と指摘する。

 MSCIの世界株指数に占める中国株の割合は2.5%。一方で米国株は53%前後と他のすべての地域を圧倒している。

 ところがマクロ経済の規模は米中が対等になりつつある。名目国内総生産(GDP)では米国が世界の約25%、中国がおよそ15%だが、購買力平価ベースでは中国が17%で、米国の16%を上回って世界最大になる。

 だから中国の減速は世界経済の成長スピードも鈍らせる公算が大きい。中国の成長率が政府目標の6.5%を大幅に下回るようなら、米国や新興国の経済のみならず、コモディティ価格や新興国通貨に下押し圧力がかかる。

 国際金融協会によると、昨年は新興国から1988年以降で初めて差し引きで資金流出となり、流出額は5400億ドルに上った。その大半は中国からだった。

 ユニジェスチョンの株式投資ディレクター、ブルーノ・テイラーダット氏は、FRBが徐々に緩和マネーを吸収する中で、中国から資金が流出して人民元がさらなる下押し圧力を受ける展開に、投資家は細心の注意が必要だと主張している。

 (Jamie McGeever記者)

[ロンドン 6日 ロイター]

120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中