最新記事

自動車

VW:車のソフト依存が不正の温床に

車載ソフトの「ブラックボックス化」を放置し続ければ、フォルクスワーゲン事件の二の舞いは防げない

2015年10月8日(木)18時00分
ジェームズ・グリンメルマン

信用失墜 フォルクスワーゲンの不正はソフトウエアに巧妙に仕組まれていた Gustau Nacarino-REUTERS

 アメリカの規制当局はなぜ、独フォルクスワーゲン(VW)による排ガス検査の擦り抜け工作を5年以上にもわたって見抜けなかったのか。それは「ソフトウエアを疑う」ことを知らなかったからだ。

 米環境保護局(EPA)は先月18日、VWが一部のディーゼル車に排ガス規制適合検査をごまかすプログラムを組み込んでいたと発表。同社も事実を認め、該当する車両は全世界で1100万台に上るとした。

 これは巨大企業による大掛かりな不正の物語であると同時に、高度にコンピューター化された自動車の危うさを浮き彫りにした事件でもある。VWの行為は昔からある詐欺の一種だが、それをソフトウエアでやった点が新しい。

 EPAは何十年も前から、排ガス検査をごまかす装置の搭載を固く禁じてきた。95年には、エアコンのスイッチを入れると排ガス低減機能がオフになる仕組みを搭載していたとして、米ゼネラル・モーターズ(GM)に1100万ドルの罰金を科した。

不正操作が発覚しにくい

 ただし、VWの不正ソフトはそれ以上に巧妙かつ狡猾。「ハンドルの位置、走行速度、エンジンの稼働時間、圧力計」のデータを感知し、「排ガス検査中」と判断した場合のみ有害物質の排出を抑制するモードに切り替わるというからくりだった。

 こうした高度な不正操作はソフトウエアにしかできない芸当で、発見が難しい。不正のための特殊なチップやバルブを隠し通すのは困難だが、排ガス検査時と通常走行時を見分けるコードを数行、ソフトウエアに書き加えても誰も気付かない。

 ソフトウエアの不正なら、修正版を問題の車両にインストールし直すことも理論上は可能だが、現実には簡単な話ではない。そもそも自動車メーカーが車両のリコールを宣言しても、回収・修理率は驚くほど低い。アメリカではリコール対象車の3分の1が修理を受けておらず、安全性の問題を抱えたまま公道を走る車は3700万台に上る。

 VWのケースでは、リコールに応じるよう車の所有者を説得するのは一段と難しいだろう。排ガス規制に適合するようソフトウエアを書き換えれば、出力が落ち、燃費も悪くなる。ディーゼルエンジンの力強さを愛するオーナーたちが、走りも燃費も悪くなるのを承知で車をサービスセンターに持っていくとは考えにくい。

 そういう事情があるからこそ、排ガス規制の検査は車の所有者個人ではなく当局の責任で行うことになっている。連邦政府の環境基準を満たしていることを自動車メーカーが保証するだけでは不十分で、州政府が1台ずつ検査する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=

ビジネス

インタビュー:高付加価値なら米関税を克服可能、農水

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中