最新記事

企業

貧しい国の政府を訴える巨大たばこの販売戦略

途上国のたばこ規制を妨害するたばこ会社に対抗する基金をゲイツらが設立

2015年3月25日(水)15時06分
シメオン・テゲル

標的は弱者 たばこ会社は途上国で市場を拡大している(写真はウルグアイのたばこ反対キャンペーン) Pablo La Rosa-Reuters

 喫煙の習慣は消えつつあると思っているなら、考え直した方がいい。

 アメリカなどの先進国ではそうかもしれない。ここ何十年も、喫煙者の半数が致命的な健康被害を受けると呼び掛けるキャンペーンが行われてきた。しかしたばこ会社がその標的を途上国の新たな市場へと変えたことで、実は世界的なたばこの販売量は増大している。

 WHO(世界保健機関)によれば、結果として喫煙が原因の21世紀の世界の死亡者数は10億人に達すると見られている。そのほとんどが貧しい国々の人たちだ。その数は20世紀の喫煙による死亡者数1億人の10倍にもなる。

 マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツと前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグという2人の大富豪は、こうした心底ゾッとする統計を目にして、途上国をたばこ会社の害から守る基金の設立を決めた。

 この基金は、たばこの販売を規制する法律を巡ってたばこ会社から訴えられた途上国政府の訴訟費用を支援する。たばこ会社は、貿易協定に含まれるあいまいな公正競争の条項を根拠にして各国で訴訟を起こしている。アジアや中南米の国々で売り上げを伸ばしたいたばこ会社の常套手段だ。

 ウルグアイでは、「マールボロ」ブランドのフィリップモリスが、大規模な広告展開を禁止し、たばこのパーケージに健康被害の画像を入れることを義務付けた法律に異議を唱えて、2010年に訴訟を起こした。

 フィリップモリスは、貿易協定で保護されている同社の知的財産権(たばこの商標)を、ウルグアイの法律が侵害したと主張している。

 今回設立された基金は、ウルグアイよりもさらに貧しい、中南米、アフリカ、アジアの国々を支援するためのもの。ワシントンに拠点があるNPO団体「子どもをたばこから守るキャンペーン」が、基金を運営することになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英、「影の船団」対策でロ石油大手2社に制裁 中印企

ビジネス

TSMC、通期見通し上方修正 第3四半期39%増益

ビジネス

8月第3次産業活動指数は2カ月ぶり低下、基調判断据

ワールド

維新が自民に政策提示、企業献金廃止など12項目 1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中