最新記事

金融

中国シャドーバンキングの闇

2013年8月6日(火)16時38分
イブ・ケアリー

 ブルームバーグの報道によれば、ムーディーズが最近、中国の信用格付け見通しを「ポジティブ」から「安定的」に引き下げたことにもシャドーバンキング問題の影響がある。

 この問題が銀行制度全体に及ぼす影響について、ムーディーズはその報告書で「中国におけるシャドーバンキングが相当規模に達し、拡大していることを考慮すると、シャドーバンキングの領域でデフォルト(債務不履行)が急増した場合、その影響を表の銀行が回避できるかどうかは疑問だ」としている。

 同報告書はまた、シャドーバンキングが「過剰なレバレッジ(借金)」に依存していると警告した。その上で銀行に及ぼす衝撃の強さは「損失の規模やタイミング、損失の発生した部門」次第だと指摘する。ただし「中国における透明性の欠如とシャドーバンキングの急成長」ゆえ、そうした情報を知るのは難しい。

 第三者の売り出したWMPを銀行が自社のWMPに組み込んでいる場合もあり、その場合も銀行経営に余波が及ぶ。昨年12月には、いくつかのWMPが償還不能になったことから投資家の抗議行動が起こり、その危険性が表面化した。
新しいWMPを売って、その資金を別なWMPの配当に回すケースもある。こうなるとまさにねずみ講だ。


制度改革に待ったなし

 複数のWMPが資金を一緒にプールしている例もある。こうすると個々の商品のリスクを隠しつつ約束どおりの支払いが実行しやすくなるが、この資金プールも所詮は償還不能や額面割れの可能性がある債券を含んでいるので支払い不能に陥るリスクは残る。

 昨年10月には、当時の中国銀行会長で現在は中国証券監督管理委員会の主席である肖鋼が政府系英字紙チャイナ・デイリーで、シャドーバンキングについてこう論じた。「金融制度全体の、または地域的なリスクを防ぐにはシャドーバンキング問題にもっと注意を払い、監督を強化するべきだ。慎重さと柔軟さが求められるが、とにかく手は打つべきだ」

 シャドーバンキングに対して、中国政府は慎重な対応を見せている。中国経済にとって大切な役割を果たさせる一方、そのリスクを最小限に抑えるためには微妙な舵取りが必要になるからだ。今後のシャドーバンキング規制には簿外の投資商品の開示やWMPの登録制などがあり、リスク商品の組み入れに上限が設定される可能性もある。

 著名投資家のジョージ・ソロスは4月の博鰲アジアフォーラムで、「中国におけるシャドーバンキングの急激な成長は、07〜08年の金融危機を引き起こしたアメリカのサブプライムローン問題と不気味なほど似通っているところがある」と指摘。「アメリカの経験が何らかの参考になるならば、中国の規制当局は今後2年ほどでシャドーバンキングの問題を収拾しなければならない。その収拾に成功することは、中国のみならず、世界にとっても非常に重要だ」と警告した。

 銀行制度全体の健全性の今後については、フォーブス誌がこう指摘している。「大部分のアナリストは、中国では金融危機は起きないと予測している。だが債務不履行の増加とローンの利益率の縮小は、同国の銀行制度にとって深刻な脅威だ」

 中国の銀行制度に潜む不良債権の増加などのリスクと、シャドーバンキングという名の「ブラック・マーケット」の出現は、制度改革が待ったなしであることを示唆している。

 実際、これは中国当局者の間でも盛んに議論されている問題だ。中国社会科学院も最近の報告書の中で、健全なる投資機会提供のためとして、金利の自由化や、統合された債券市場の創設など、複数の金融制度改革を提示している。

[2013年7月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中