最新記事

エコカー

電気自動車の常識を覆す超速充電方式

テスラの新しい「電池交換」システムを使えば90秒でフル充電が可能になる

2013年7月11日(木)15時32分
ウィリアム・オコナー

最後の壁 給油(画面左)とテスラの電池交換(壇上)の速度を競うデモンストレーション Lucy Nicholson-Reuters

 電気自動車(EV)の販売でネックになるのはバッテリーの充電だ。消費者にEVへの乗り換えをいくら勧めても、充電に時間がかかり過ぎるからと敬遠されてしまう。だが、そんな状況も新技術の登場で昔話になるかもしれない。

 アメリカでいま最も評価の高いセダンタイプの高級EV車「テスラ・モデルS」を生産・製造しているテスラモーターズが先頃、モデルS対応の「バッテリー交換システム」を華々しくお披露目した。

 このシステム導入によって、モデルSの所有者は「無料でゆっくり」か「有料で速く」かの選択肢を手に入れたと、イーロン・マスクCEOは言う。

 モデルSはこれまで、テスラが全国に設置する急速充電スタンドで充電するしかなかった。「急速」と言っても約20分かかるが、費用は無料だ。

 しかし今後は「バッテリー交換システム」という充電方法を選ぶことができる。これだと空のバッテリーをフル充電のものと交換するだけなので、必要な時間は90秒足らず。ただし別途費用が発生する。

 それでも充電時間が大幅に短縮されれば、走行可能距離で優位に立っていたガソリン車を追撃できるかもしれない。

 新システムの発表会では、給油スピードがロサンゼルスで最速とされるガソリンスタンドでの給油時間と、テスラの新バッテリー交換システムでの交換時間を比較するデモンストレーションが行われた。

 その差は歴然としていた。ガソリン車1台が給油を終える間に、テスラのシステムでは2台のモデルSのバッテリー交換が完了したのだから。「これで、電気自動車の時代が到来したとご理解いただければ幸い」とマスクは胸を張った。

 問題は、自社専用のバッテリー交換システムによる顧客の「囲い込み」が吉と出るか、凶と出るかだ。ちなみにバッテリー交換方式は日欧のメーカーも検討しているが、導入に際して国や大陸レベルの規格統一を待つ構えだ。

 それでもモデルSの販売は好調なので、テスラは自社だけでも規模の効果でバッテリー交換方式の採算が取れると判断したのかもしれない。

 どう転ぶにせよ、これからEVがシェアを伸ばしていくためには、充電時間を給油時間並みに縮める必要がありそうだ。

[2013年7月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中