最新記事

M&A

スプリントを買った孫正義の資金とエゴ

一見すると日米の負け組連合だが、アメリカの利用者にとって期待のシナリオもある

2012年11月21日(水)15時43分
マシュー・イグレシアス

スプリントのダン・ヘッセCEO(右)と記者会見に立った孫 Yuriko Nakao-Reuters

 米携帯電話3位のスプリント・ネクステルは、つい最近まで死に体同然だった。看板機種はなく、次世代高速通信LTEの対応で後れを取り、顧客獲得は進まず設備投資の資金もない。1位のAT&Tや2位のベライゾンに大きく水をあけられ、4位のTモバイルはメトロPCSと合併交渉中だった。

 そこに日本のソフトバンクが買収の名乗りを上げた。携帯電話のように地域的な制約のある事業では、海を越えた投資で相乗効果を得るのは至難の業。それはTモバイルを子会社化したドイツテレコムの経験からも分かる。それなのになぜ?

 ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌のロビン・ファルザートが分かりやすく解説している。鍵は資金力と孫正義の自負心だ。以下に引用してみる。


「私は男だ。男なら誰でも一番になりたい」──日本で2番目の富豪で、ソフトバンク社長の孫正義がスプリント買収について語った言葉だ。

 エゴを満足させたいなら今回の買収はうってつけ。ブルームバーグによれば、日本企業による外国企業買収では少なくとも過去12年で最大級だ。買収の理由については為替、資金注入の高揚感、大胆さで要約できる。

 円高の現在、ドル建て資産はお買い得だ。5年ほど前は1ドル=123円だったが、今や79円ほどに下落。日本企業は海外資産を買いあさり、ウォール・ストリート・ジャーナルが引用した調査会社ディーロジックのデータによると、彼らは年初来、650億ドル以上を投じている。


 一見すると日米の負け組同士の統合だ。買収計画が明らかになるとソフトバンク株は20%下落した。しかし統合後、同社は契約者数で日本最大手NTTドコモを抑えて1位に躍り出る。

 こうしたインフラ市場は独占に陥りやすい。全国的なLTE網を最初に構築した企業は、巨額投資と引き換えに市場を独占し、独占価格を設定できる。LTE市場参入が2番手なら費用負担は同じく巨額だが、シェアは半分で価格設定も低くなる。3番手は費用負担は同じで、シェアも価格もさらに低下する。

 アメリカの利用者にとって最良の筋書きはソフトバンクが日本国内で利益を出し、米3番手のLTE網構築という賭けに資金を投じること。展開が楽しみだ。失敗はほぼ確実だろうが。

© 2012, Slate

[2012年10月31日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数は1000件減、小幅減も雇用

ワールド

カナダ中銀総裁「予測外れるリスク高まる」、米政策の

ビジネス

米労働生産性、第3四半期速報値は4.9%上昇 2年

ビジネス

トランプ氏「今すぐ大幅利下げを」、金利据え置きでF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 7
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 8
    致死率高い「ニパウイルス」、インドで2人感染...東…
  • 9
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中