最新記事

不良債権

中国金融が抱える時限爆弾

地方の過剰債務、不動産業界の資金繰り悪化、闇融資……中国銀行の「不良債権比率1%」の嘘に潜む時限爆弾

2012年10月18日(木)14時56分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケンナ大学教授)

宴のあと 中国主要都市の住宅価格は下がり始めた(山西省太原で建設中の高層住宅) Reuters

 金融システムが崩壊するきっかけはいろいろある。だが根本的な原因は皆同じ。信用の爆発的な拡大だ。だとすれば、近年の中国における安易な信用供与が何をもたらすか、私たちは大いに心配するべきだ。

 09年〜今年6月末の中国の金融機関の新規貸出総額はおよそ35兆元(約434兆円)。これは昨年1年間のGDPの73%に相当する。

 このうち3分の2は、中国政府が景気刺激策を打ち出した09〜10年に貸し出された。世界同時不況が現実味を帯びた当時、欧米諸国は財政赤字を増やして景気刺激策を打ち出した。これに対して、中国は景気対策の60%以上を銀行融資で賄ったことになる。

 新規貸し出しという形で数兆元を市場に供給することで、中国政府は高成長を維持するという目的を達成した。その決然たる態度は世界中から称賛を浴びたが、行き過ぎた信用拡大は不動産バブルを招き、国有企業の浪費を助長し、地方政府による無計画なインフラ投資を促した。

 結果は予想どおりだ。金融機関は大量の不良債権を抱えることになったのだ。10年末に中国人民銀行(中央銀行)と金融規制当局が警告を発したが、既に手遅れだった。

 簡単にカネを借りられる気安さから、地方政府は莫大な債務を抱え込んだ。そのほとんどは当局の権威を誇示するプロジェクトや、経済的に無意味なプロジェクトに投資された。

 日本の会計検査院に当たる国家審計署によれば、10年末の地方政府の債務残高は計10兆7000億元(約132兆6800億円)に上った。米ノースウェスタン大学のビクター・シー准教授(政治学)は、もっと多い15兆4000億〜20兆1000億元(中国のGDPの40〜50%相当)とみる。

 シーによれば、このうち地方政府が銀行融資を受けるときにつくる受け皿会社(LGFV)の債務残高が9兆7000億〜14兆4000億元を占める。

 このLGFVは、底無しの穴に優良資金をつぎ込むことで知られる。ということは、投資したプロジェクトがまともな収益をもたらさずに債務の返済に行き詰まる可能性が高い。

 たとえ焦げ付きの割合が10%程度だったとしても、銀行にしてみれば1兆〜1.4兆元の貸し倒れになる。それが20%になれば(こちらのほうが現実的な数字だ)、銀行は2兆〜2兆8000億元の損失を被る。それはこれら金融機関の収支全体に大打撃を与えるだろう。

破綻ドミノは始まっている

 中国政府はこの時限爆弾の存在に気付いている。だが打ち出した対策は、期日の迫った地方政府の債務返済期限を1年先送りするよう金融機関に義務付けただけ。これでは爆発を先延ばししたにすぎない。

 中国共産党はこれから大規模な指導部の交代を控えている。そんなときに金融業界で大混乱が起きたら大変だ──そんな思惑があったのは間違いない。
だが時限爆弾の時計は止まっていない。むしろ爆発の時は刻々と迫っている。では、LGFVの債務焦げ付きの次は何が起きるのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中