最新記事

中国

昆明のアップルストアは海賊版の最高傑作

買い物客ばかりか店の従業員までが自分は本物のアップルで働いていると思い込んでいる徹底ぶり

2011年7月21日(木)16時08分
エミリー・ロディッシュ

これは本物 アップルの過去最高益には中国が大きく貢献したけれど(北京のアップルストア) David Gray-Reuters

 中国が海賊版の撲滅に本気で取り組んでいるとしたら、当局は摘発対象を小さな商品に的を絞っているに違いない。

 雲南省昆明在住の外国人女性(27)、バード・アブロードのブログは、コピー対象が「店舗まるごと」ぐらい大きくなると、かえって当局の目も届きにくくなる、と指摘している。


 その店は、アップルストアそのものだ。らせん状の階段、2階に設けられた商品を試すテーブル席。店員はそろいのブルーのTシャツを着て、アップルのマークが入った名札を首からぶら下げている。

 これは本物のアップルストアか、それともこれまでに見た中で最高のコピーか。それを確かめるために、店内に足を踏み入れてみた。私は無謀にもこれが本物だという方に賭けた。「昆明にアップルストア?」と、笑われるのは分かっている。私の知り合いでなければ、昆明を知っている人なんて1人もいないだろう。ここは地の果てのようなところだ。


 しかしやはり昆明のアップルストアはまったくの偽物だった。


 素晴らしいパクリだ。見事としかいいようがない。中国では毎日のようにパクリ店舗を目にするが、これは今まで見た中で最高のものだろう。

 しかしちょっとおかしな部分もある。階段の作りは貧弱だし、壁もちゃんと塗られていない。本物のアップルなら、看板に「アップルストア」と書いたりはしない。光り輝くリンゴマークを掲げるだけだ。

 知りたがり屋の私たちは店員と話をしてみた。彼ら全員が、自分たちはアップルの従業員だと心から思い込んでいる。おそらく雇われた時に、革新的なグローバル企業のアップルで働けると吹き込まれたのだろう。しかし実際には、本物のアップル製品かどうかも分からない物を売りつけ、郊外の豪邸に暮らすペテン師経営者を儲けさせているだけだ。


マイクロソフトの二の舞か?

 何てすごい話だろう。しかしアップルの未来が中国を始めとする新興国にあるのは明らかだ。ニュース雑誌アトランティックの電子版はこう指摘している。


 アップルが先日発表した第3四半期の決算では、売上高、純利益とも四半期ベースで過去最高となった。その際の会見で、ティム・クックCOO(最高執行責任者)は中国が「業績のカギ」だと語った。中国の4店舗は、世界でも最高の平均来客数と平均収益を上げている。

 一方で、IT関連ニュースサイトのZDNetは海賊版が横行することに注目し、アップルの右肩上がりの業績がどれくらい続くか疑問を投げかけている。


 マイクロソフトと比較すれば分かる。海賊版のおかげで、マイクロソフトは中国で大した利益を上げていない。

 アップルの公式サイトによれば、中国国内のアップルストアは北京と上海(各2店舗)の4店舗だけ。しかし昆明の店舗からちょっと歩けば、さらに2つの偽アップルストアが見つかるという。その驚愕のパクリぶりは一見の価値がある。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中