最新記事

米中関係

中国経済「世界2位」は貿易戦争を招くか

4〜6月期のGDPで日本を抜いた中国に対し、貿易赤字の膨らむアメリカが保護主義に走りかねない

2010年8月17日(火)16時37分
ジョエル・シェクトマン

大国の責任 経済規模がここまで大きくなれば、もう新興国とは呼べないかも(人民元紙幣) Jason Lee-Reuters

 中国が世界第2の経済大国になった今、アメリカとヨーロッパは巨額の貿易不均衡をめぐる中国批判を強めるはずだ。高度に工業化された日本と長らく競り合っていた中国が日本を追い抜いたことは、大きな意味を持つと受け止められている。

「もはや中国を新興国と呼ぶことはできない」と、エコノミック・アウトルック・グループのバーナード・バウモールは言う。「より大きな国際的責任と向き合わなければいけない。フェアに行動する必要がある」

 日本政府が16日に発表した今年4〜6月期の国内総生産(GDP)の速報値によると、日本の経済規模(名目GDP)は約1兆2883億ドル。同期の中国のGDPは1兆3369億ドルで、ライバル日本を上回った。

 その差はわずかだが象徴的な節目であり、貿易不均衡を是正するよう中国に圧力を掛け続けるアメリカにも影響を与えるかもしれない。中国の7月のモノとサービスの輸出は、輸入より287億ドル多かった。つまり287億ドルの貿易黒字だ。一方のアメリカは6月、貿易赤字499億ドルを記録した。

 中国が巨額の貿易黒字を抱えているのは、自国の通貨を操作して自国企業を競争から守っているからだと、アメリカとヨーロッパは主張する。「中国は今や世界第2の経済大国であり、こうした保護主義的な政策を正当化するのはますます難しくなる」と、バウモールは言う。

中国企業を狙い撃ちする法案

 貿易赤字があると外国への借金に依存することになり、それは中国を含む世界の経済にとっても良くない、というのが米欧の立場だ。「いつまでも借金を増やすわけにはいかない」と、スタンダード&プアーズのチーフエコノミスト、デービッド・ウィスは言う。「いずれ世界の市場はアメリカの債務が多すぎると判断し、ドルが暴落するだろうが、そのときは人民元も暴落することになる」

 中国の政策は、高価な商品への需要が急拡大している自国の消費者にとってもマイナスになりかねない。人民元を安く保てば、アメリカの消費者にとって中国製品は安くなるが、中国の消費者が買う輸入品の値段は高くなる。

 中国が世界2位になったことで、アメリカの政治家は対中「報復」に向かって勢いづくかもしれない。それは皆にとって不幸なことだろう。アメリカの貿易赤字が過去2年で最悪の水準に達するなか、チャールズ・シューマー上院議員(民主、ニューヨーク州)は中国企業を新たな関税で狙い撃ちする法案を推し進めようとしている。

「政治家は赤字が嫌いだが、アメリカで新たな保護主義が台頭すれば、両国の経済を揺るがしかねない」と、ウィスは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中