最新記事

アップル

iPhone/iPad新OSでまたひと儲け

「iPhoneOS4」や「iAd」、フラッシュ排除が独り勝ちを生むからくり

2010年5月11日(火)15時30分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

アップルの庭 次世代OSを発表するジョブズ(4月8日) Robert Galbraith-Reuters

 私を含め一部のメディア連中がアップルのiPadに夢中になっているのを見て、「狂っている」と思った人もいるだろう。だが、その後の展開を聞いてほしい。

 アップルは4月8日、iPadとiPhone向けの次世代OS(基本ソフト)「iPhoneOS4」を発表した。これは、まともな人なら大したニュースじゃないことくらい分かるだろう。そもそもOSなんてマニア向けのものだし、この新OSの発売は夏以降になるという。

 それでも記者発表には興奮したブロガーやジャーナリストたちが殺到。記者発表をブログでライブ中継した者さえいた。発表内容がいったい何だったのか、気にしながら2時間も待ってなんかいられないというわけだ。さらに悲しいのは、恐らく多くの人が実際に仕事の手を止めて、そうしたブログを読んだだろうということ。もしもあなたがその1人だったら──どうかあなたに神のご加護がありますように。

 それはさておき、肝心のニュースは、iPhoneOS4がマルチタスク(パソコンのように複数のアプリケーションを同時に起動して同時に作業すること)対応だという点だ。

ハードが格好良すぎてつい言いなりに

 他社の携帯電話のOSは既にマルチタスクに対応しており、アップルは本来なら他社にこれほど後れを取ったことを恥じるべきだ。だがアップルは厚かましくも、こう主張した。自分たちは超が付くほどの完璧主義者で、他社よりはるかに優れたマルチタスク対応機能を開発したかったから時間がかかっただけだと。まさに、市場に出遅れた者が使う常套句だ。

 注目すべきは、アップルが自社の携帯電話のOSをパソコンのOSのようにしようとしていること。ただし、パソコンと違ってiPhoneのOSでは、好きなアプリケーションをダウンロードして使うことができず、すべてアップルから購入しなければならない。

 言い換えれば、アップルが開発しているのは、自分たちが完全にコントロールすることのできる新種のパソコンだ。そして人々は、まんまとアップルのやり方に引っかかっている。ハードウエアがあまりに格好いいからだ。

 アップルはこの日、新しい広告プラットフォーム「iAd」も発表した。iPhoneとiPad上で使われるアプリケーションに広告を組み込み、その広告収入の60%がアプリ開発者に、40%がアップルの懐に入る仕組みだ。アップルは広告の販売・提供・配信をすべて手掛けるという。

 つまりアップルは、自分たちが完全にコントロールできる「塀で囲んだ庭」をつくるだけでは飽き足らず、その庭の中で提供されるすべての広告をも管理しようとしている。スティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)は、自分以外の誰かが許可なしにアップル製品で一銭でも儲けることを許さない、というポリシーを貫いている。

それでもフラッシュをサポートしない理由

 もちろん、ジョブズはそんな態度はおくびにも出さず、いつものようにiAdは社会奉仕活動の一種だと語った。「これはわが社が一獲千金を手にするためのビジネスモデルではない。アプリケーションの開発者が業界で生き抜いていくのを手助けするものだ」

 ニュースはまだある。アップルは依然アドビ・フラッシュをサポートするつもりはないそうだ。理由については何も説明がなかったが、ちょっと考えれば分かる。Huluのようにフラッシュを使用した動画を提供するサイトを使えなくすれば、ユーザーはアップルのiTunesストアからコンテンツを購入せざるを得なくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中