最新記事

フェースブックを作った男

フェースブック
過去か未来か

打倒グーグルの最有力候補は
会員5億人の「お友達帝国」

2010.10.27

ニューストピックス

フェースブックを作った男

2010年10月27日(水)15時45分
ジェレミー・マッカーター

 彼の謎めいた性格の表現については、脚本をも超えるアイゼンバーグの演技の力が大きい。眉をピクリと動かし、顔を引きつらせ、さっと視線を走らせるなど、そのしぐさは周りを寄せ付けない。自己防衛が過剰で傷つきやすく、愛情に飢えている。不器用なくせに人を動かすときの洞察力は鋭い。

本当の孤独は癒やせない

 ザッカーバーグ本人でさえ自分をよく分かっていないことは皮肉な結果を招くが、悲しいことに私たちの多くも同じ罠にはまっている。ザッカーバーグたちは膨大な時間とエネルギーを費やし、自分たちの作ったソーシャルネットワークを通じて人々を結び付けようとするが、やり方がそもそも間違っていることに気付いていない。

 有意義で幸せな人生は、孤独から逃れた先にあるわけではない。ワイルダーが半世紀前に学生たちに語り掛けたように、アメリカみたいに大きくて自由で何の邪魔もない国に暮らしていると、孤独は避けようがない。

 私たちはむしろ、孤独の「使い方」を身に付けなければならない。ワイルダーの素晴らしい表現を借りれば「孤独を、豊かで有益な独りに変えようとするアメリカ人の戦い」だ。映画の登場人物が互いにうまく付き合えないのは、自分との付き合いができていないからであり、本当の自分を知らないからでもある。

 映画を見た後にフェースブックにログインすると(どんなときもログインせずにいられない)、これまでと少し違う感覚が生じるかもしれない。ひとつには、だらだらとフェースブックを使うのは良くないと思えてくる。かつてないほど騒々しく厳しい世の中で、クリック1つで数十人、数百人の友人とつながれば、「有益な独り」を築くことは難しくなるばかりだ。

 この「常につながっている」という感覚は、不安や恐怖を忘れたような気にさせる。そして学生のように不安定なまま成長できない自分を感じ始める。

 しかし映画を見た後の最大の変化は、フェースブックが痛ましいものに見えてくることだ。現代の孤独への対抗策として始まったフェースブックが、私たち自身の孤独との戦いの記録のように思える。

 フェースブックと孤独の関係を最も鮮明に描いているのは、3分間の印象的な予告編だ。レディオヘッドの「クリープ」の合唱に乗せて、フェースブックのプロフィールが映し出される。日常生活の断片が積み重なって社会のもろさと夢を俯瞰する映像は、ワイルダーが小さな町の日常生活を描いた戯曲『わが町』の世界だ。
 
 絶えず誰かとつながっていても私たちを本当に苦しめる孤独は癒やせないが、それでも私たちはつながっていようとする。人生のルールを見つけようとし、どうやって大人になればいいのかを知ろうとする。自分がザッカーバーグと同じ罠にはまらないようにと願いながら。

[2010年10月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

年内のEV購入検討する米消費者、前年から減少=調査

ワールド

イスラエル、ラファに追加部隊投入 「ハマス消耗」と

ビジネス

米ミーム株が早くも失速、21年ブームから状況に変化

ビジネス

保有ETFの処分、すぐに行うとは考えていない=植田
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中