最新記事

【5】ドルはもっと安くていい。

ウラ読み世界経済ゼミ

本誌特集「世界経済『超』入門」が
さらによくわかる基礎知識

2010.04.12

ニューストピックス

【5】ドルはもっと安くていい。

2010年4月12日(月)12時10分

 普通に考えれば、金融危機の震源地アメリカの通貨ドルは暴落してもおかしくないように思える。だが実際には、逆に強さを発揮してきた。米政府管理下で経営再建中の米保険大手AIGが史上最大の赤字を出して株価が急落した3月2日のニューヨーク市場でも、ユーロや円など主要6通貨に対するインターコンチネンタル取引所(ICE)のドル指数は06年4月以来の最高水準に達した。 

 為替の水準は本来、経済成長率や金利水準など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)で決まる。しかしドルは、金融危機で米景気が悪化し、FRB(米連邦準備理事会)が事実上のゼロ金利を採用するなかでも買い進まれた。信用が崩壊した特殊な状況下では、頼るべき通貨は世界で通用する基軸通貨のドルしかなかったのだ。だが平時であれば、ドルはもっと安くていい。現に世界的に株価がやや持ち直した3月半ばには、投資家の不安が後退してユーロが対ドルで5週間ぶりの高値を付けた。

 金融危機以降、主要通貨のなかで例外的にドルに対して高くなったのが円だ。08年8月の1ドル=110円が、年末には90円を突破した。金融機関にサブプライムローン関連の損失が少なかったことと、それまで過剰な円安の原因になっていた突出した低金利が、米欧の利下げで目立たなくなったためだ。

 ドルにとっては、世界最大の約2兆ドルの外貨準備をもつ中国が、金融危機の元凶としてドル一極体制への批判を強めていることも不安材料。基軸通貨ドルに代わる国際準備通貨が創設されれば、ドルの地位はさらに低下するかもしれない。

[2009年4月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中