最新記事

中国モデルに世界が学ぶとき

中国の真実

建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像

2009.04.24

ニューストピックス

中国モデルに世界が学ぶとき

世界が景気後退一色に染まるなかで、資本主義とは異なる中国の統制型経済が勝ち続けられる理由

2009年4月24日(金)18時56分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

欧米の資本主義国が景気後退に苦しみ、貿易戦争の兆候も表れはじめた世界経済。危機脱出の処方箋となるのは中国の統制型資本主義か、孤高の論客が唱える「デリバティブ推進」論か、あるいは──。

 世界経済は悪化する一途だが、中国だけは今年もかなりの成長を達成しそうだ。それはこの国が主要国のなかで唯一、経済の基本ルールをことごとく無視する常習犯であることと無縁ではない。

 中国に真の市場経済は存在しない。政府は統計をごまかし、株価を操作し、主要産業の商品価格を決定する。戦略的産業の多くは国有だし、銀行の主要ポストには共産党員が送り込まれ、融資先や投資先を指図する。

 だが今、中国経済が他の経済大国ほどのスピードで減速していない最大の理由は、政府によるこうした経済への干渉にある。政府は金融業への外資参入を規制し、今回の危機の主たる原因となった複雑な金融商品を認めてこなかった。

 世界経済は今、過去70年間で最悪の後退局面にある。そのなかで、最も貧しく混沌とした巨大経済をかかえる中国が、最も堅実な成長を遂げようとしている。この国の統制型資本主義がうまく機能するのはなぜなのか。 

 中国政府は危機に際して、市場経済的な措置と統制型資本主義的な措置の両方を取ることができる。たとえば住宅市場が過熱ぎみだった08年初め、政府は銀行に住宅ローンの貸し付け制限を命令。住宅の売り上げが落ち込んできたところで、住宅購入者への減税措置といった市場活性化策を採用した。

 西側諸国のように6000億ドル規模の大型景気刺激策を発表しつつ、西側では不適切とみなされる干渉も行っている。09年1月上旬には鉄鋼や建設などの国有企業に対し、国内外で「新たな資産」の買収を進め、国家経済で「積極的な役割を果たす」よう要請した。

 かつて政府の干渉は経済が未熟な国の悪弊とみなされたが、今や安定の要と目されている。「政府が主な資本集約産業を管理しているので中国の今後は楽観できる」と、香港の投資銀行CLSAのエコノミスト、アンドルー・ロスマンは言う。「なにしろ、政府が企業に『投資を続けろ。設備投資を先送りにするな』と命令できるのだから」

 輸出市場や国内株式市場の大幅な低迷にもかかわらず、中国経済の09年の成長率は7%を超える可能性が高い。近年の2けた台の成長と比べれば見劣りするが、金融危機に沈む他の国々よりは堅調だ。

 銀行が融資条件を緩和しているため、法人融資は増えている。中国ではGDP(国内総生産)の40%にのぼる投資が「持続的成長の根幹」をなす。だから政府は投資を増やして成長不安要因を取り除こうとしていると、モルガン・スタンレーのエコノミスト、スティーブン・ローチは指摘する。

 資本主義の復活をめざす「走資派」の元祖であるトウ小平は、「黒いネコでも白いネコでも、ネズミを捕まえるネコがいいネコだ」と、経済成長をイデオロギーの純粋性の上に位置づけた。

 中国の指導者たちはトウの言葉を盾に、統制的な資本主義で経済を成長させる代わりに共産党が絶対的な政治権力を維持するという現在の体制を維持しようとしている。民主化をしていたら、豊かになるどころか世界的な景気後退も生き抜けなかっただろう、というのが彼らの主張だ。

 「中国は民主的な市場経済を受け入れる準備ができていない」と、上海市金融弁公室主任の方星海(ファン・シンハイ)は言う。「トウの天才的なところは、30年前に市場経済を導入したとき、(改革がもたらす変化に耐えるには)安定した政治システムが必要だと理解していたことだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ABNアムロ、第1四半期は予想上回る29%増益 高

ビジネス

三菱UFJFG、発行済み株式の0.68%・1000

ワールド

中国、台湾新総統就任控え威圧強める 接続水域近くで

ワールド

米財務省、オーストリア大手銀に警告 ロシアとの取引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中