最新記事

倫理潔癖症が生む「空っぽ」オバマ政権

オバマのアメリカ

チェンジを掲げた大統領は
激震の超大国をどこへ導くのか

2009.04.24

ニューストピックス

倫理潔癖症が生む「空っぽ」オバマ政権

過去の納税もれ等の細かすぎる身元調査のせいで300余りの高官ポストが空席のまま。政治の停滞を招く人事クライシスの驚くべき実態とは

2009年4月24日(金)06時53分
エバン・トーマス、ジョン・バリー(ワシントン支局)

 アメリカの公立学校を改革し、連邦政府の教育予算を大幅に増額したいと、バラク・オバマ大統領は言う。しかし数日前にアーン・ダンカン教育長官のオフィスに本誌が電話したとき、2分間くらい誰も電話に出なかった。ようやく受話器を取った女性は言い訳がましく言った。「空席のポストだらけなもので」

 教育省だけではない。経済危機への対応に追われる財務省では、ティモシー・ガイトナー長官を支える十数の主要ポストがまだ埋まっていない。ブッシュ前政権から残留した高官3人と上院の承認を経ずに就任できる役職の幹部たちでどうにか切り回しているのが実情だ。これでは、ガイトナーが保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の高額ボーナス問題を把握できていなかったのも無理はない。

 4月2日にロンドンで開かれる金融サミット(G20)の準備を進めているガス・オドネル英内閣府官房長官は3月初めに、米財務省とうまく連絡が取れないと不満をもらした。「(電話しても)誰もいない。連絡を取るのが本当に大変だ」というオドネルのオフレコ発言がリークされている。

 オバマ政権の高官になりたい人がいないわけではない。3300のポストに約30万人の採用希望者が殺到している。しかしワシントン・ポスト紙によれば、上院の承認を必要とする373の役職のうちですでに埋まっているのは43だけ。厳格を極める審査プロセスのせいで、普通であれば十分に資格を満たすはずの候補者が排除されたり辞退したりしている。

 その最たる例が、新政権で医療保険改革を任されるはずだった上院民主党の重鎮トマス・ダシュル前院内総務だ。厚生長官に指名されていたが、約14万ドルの税金未納が発覚して指名を辞退した。

 ホワイトハウスによれば、上院の承認プロセスが滞っているために仕事を始められない役職者は数十人にのぼるという。とくに問題なのは、重要課題をかかえる財務省だ。消息筋(微妙な内容であることを理由に匿名を希望)によると、上院財政委員会は税金問題を理由に複数の財務省高官候補に水面下でノーを突きつけたという。

身元調査にこだわる悪習

 「クリーンな政府」を求める有権者の声を意識するあまり経済危機対策が遅れるのは本末転倒だが、この図式は今に始まったことではない。改革者の情熱を実践する役回りが法律家にゆだねられると、えてしてこういう結果になる。

 政府高官候補の身元調査用にホワイトハウスが用意しているチェックリストは、今や100ページ近くにふくらんでいる(しかもこれとは別に、安全保障上の入念な身元調査がある)。ホワイトハウスの弁護士による面接では、きわめて私生活に立ち入ったことを根掘り葉掘り聞かれる場合もある。ダシュルは、慈善団体に寄付を行ったことを証明するために30ドルの領収書の提出を求められた。

 身元調査対策に弁護士や会計士を雇えば莫大な金がかかる。オバマ政権の国家安全保障部門の高官に指名されたある大学教授は、そのために新たにローンを組む羽目になったと本誌に語っている。ブッシュ政権から留任したロバート・ゲーツ国防長官は06年の就任時に、身元調査対策に約4万ドルを費やした。ドナルド・ラムズフェルド前国防長官の場合は、25万ドルを超す出費だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

原油先物は下落、米高金利の長期化が需要圧迫との懸念

ビジネス

豪消費者信頼感、5月は前月比0.3%低下 政府の物

ワールド

トランプ氏が起訴取り下げ要求、不倫口止め裁判

ビジネス

米デル、AI対応製品の品揃え強化へ 新型PCやサー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中