コラム

「出馬断念」に追い込まれた、在日中国人の悲しき原罪

2025年03月19日(水)11時33分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
石平

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国出身の評論家・石平氏が先日、この夏の参院選への立候補を表明したが、直後に断念に追い込まれた。日本では過去に、「帰化一世」が国会議員に立候補し当選したことがある。なぜ中国人は駄目なのか>

1988年に来日、2007年に日本国籍を取得した中国出身の評論家・石平(せき・へい)氏は先日、この夏の参院選への立候補を表明したが、約2週間後に断念した。「中国のスパイ」というネット上の誹謗中傷が1つの要因だが、普段から彼の評論を熱心に読んでいる日本人読者の間でも、「帰化1世」が日本の政治家になることへの拒否感が強かった。そもそも石平氏自身も過去にそのような主張をしたことがある。

日本では過去に、「帰化1世」が国会議員に立候補し、当選したことがある。元フィンランド人で元民主党参院議員の弦念丸呈(ツルネン・マルテイ)氏だ。地方議会なら、インド出身者やボリビア出身者も議員になっている。なぜ、中国人だけが「帰化1世」では駄目なのか。


「中国で生まれ育ったことは、われわれの原罪だ。日本社会が『信頼できる中国人』を判別するのを期待するのは無理。その『罪』を背負いながら、正しく生きるしかない」と、ある在日中国人がネットに投稿した。中国政府への不信感と「中国人=スパイ」というイメージの広がりによって、在日中国人は簡単に「潜在的な裏切り者」と見なされる。その結果、石平氏のような「愛日主義者」も批判から抜け出せない。

法務省の統計によると24年6月末現在、日本に住む中国人は約84万4000人。うち毎年約2000~3000人が帰化する。彼らの全てが石平氏のような「愛日主義者」ではないかもしれない。だが個人の権利を尊重し、社会インフラが整備され、安定した日本の社会と生活が好きだから日本国籍を選ぶはずだ。在日中国人の多くは、日本の暮らしに慣れれば慣れるほど中国社会に違和感を覚えて母国に戻れなくなる。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は5月以来の前月比マイナス 予

ワールド

マクロスコープ:円安・債券安、高市政権内で強まる警

ワールド

ABC放送免許剥奪、法的に不可能とFCC民主党委員

ワールド

アングル:EUの対中通商姿勢、ドイツの方針転換で強
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story