コラム

組織心理学の若き権威、アダム・グラントに聞く「成功」の知恵

2022年06月11日(土)13時26分

NW_INT_02.jpg

2004年にフェイスブックを立ち上げて間もない頃のザッカーバーグ(左)と共同創業者のクリス・ヒューズ RICK FRIEDMANーCORBIS/GETTY IMAGES

ポトリッキオ どうして『THINK AGAIN』を書こうと思ったのか。

グラント 私自身、見直すのが遅すぎて、まずい決断をした経験があるからだ。私が心底後悔している決断のうち、最初のものは1999年の決断だ。

ハーバード大学初のソーシャルネットワークサイトを共同設立して新しく入学する学生の8分の1をつないだんだが、(マサチューセッツ州ケンブリッジにある)キャンパスに着いたら「待てよ、みんな同じケンブリッジに住んでいるんだから、ソーシャルネットワークサイトなんて必要ない!」と思って結局閉鎖した。

その5年後、隣の寮でマーク・ザッカーバーグがフェイスブックを立ち上げた。自分の決断を見直すチャンスを逃したことは何度もある──間違った想定をしていることにすら気付かなかった。学生時代「自分は起業家になれるだろうか」なんて考えもしなかった。

SNSについて、大学生だけでなく大人も関心があるか、近くにいる人同士にも関係があるかなどと考えてみなかった。見直す大きなチャンスを逃したのだ。その10年後、私はペンシルベニア大学ウォートン校で初めて教鞭を執ることになり、そこで学生たちから彼らのアイデアへの投資を持ち掛けられた。

それは後の(眼鏡直販の)ウォービー・パーカーだったんだが、私は投資しなかった。あのときも見直すべきだった。ウォービー・パーカーは今では年商1億ドルの企業。一方、わが家の投資の決定権は今でも妻が握っている。それでも2年前、同社の上場前に投資したから、よかったが。

TA.png

【世界的ベストセラーになっている『THINK AGAIN ──発想を変える、思い込みを手放す』アダム・グラント[著]、楠木 建[監訳]三笠書房( 2022年4月)】

私自身、自分の信念やアイデンティティーの核である意見や前提をなかなか手放せないが、それは私だけではないようだ。経営陣が考え方を変えないために会社がつぶれることもある。現在ウクライナで起きている残虐行為や悲劇も、プーチンが決定を見直せば起きなかったはずだ。

長年、多くの戦争でリーダーが部隊を動員して死者が出ているが、それでも関与を縮小するどころかリスクを冒してさらにエスカレートさせている。見直さなかったせいだ。つまり、私が本書を書こうと思ったのは「見直さないと苦しむ羽目になる」と伝えるためだ。私たちがまずい決断を下せば、企業が苦しみ、国家が苦しむ。世界が急速に変化している今、これは問題だと思う。

完全に安定した世界なら、一度決断したことを見直さなくても大丈夫だ。だが世界が目まぐるしく変化している今、私たちを取り巻く環境は、私たちが最良だと思ってしがみついている慣行が発想された当初とは一変している場合が多い。だから発想にかかったのと同じくらい時間をかけて見直す必要がある。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ウェイモ、来年自動運転タクシーをラスベガスなど3

ビジネス

欧州の銀行、米ドル資金に対する依存度高まる=EBA

ワールド

トランプ氏、NY市長選でクオモ氏支持訴え マムダニ

ワールド

ウクライナ、武器輸出・共同生産拠点を独とデンマーク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story