コラム

二期目のトランプと「現実世界」を繋ぐのは誰か?

2024年12月04日(水)14時30分

しかし、ゲーツ氏には未成年の女性に関する買春疑惑があるなどの理由から、議会上院における承認は難航すると言われていました。但し、トランプ氏は上院議員の自分への忠誠度を測るという意味合いで、ゲーツ指名を強行する構えだったのです。そんな中、バンス次期副大統領は、上院議員としての同僚という立場を利用して、議員を一人一人説得する役回りをしていました。

そんな中、突然、11月21日にゲーツ氏は、自ら指名を辞退すると表明、彼を司法長官に指名する計画は断念に追い込まれました。その経緯ですが、直前まで「過半数をまとめる」としていたバンス氏から、トランプ氏に電話があり「実は議員の反対が根強く、ゲーツ承認は数合わせが成立しない」という一報が入ったのだそうです。これをトランプ氏が受け入れて、ゲーツ指名断念という判断となったといいます。


微妙なニュアンスは本人同士しか分からない世界ではありますが、バンス氏という実務家がトランプワールドと現実との橋渡しに動いているというのは、この事例からは明らかだと思います。

もう一つは、クシュナー父子の問題です。とにかく、2021年1月の議会襲撃事件以降、イヴァンカ氏夫妻は父親の政治活動とは一線を画すと表明、今回の選挙戦でも顔を見せていませんでした。ですが、そのイヴァンカ夫妻は、11月6日未明の勝利集会には顔を見せていたようです。また、クシュナー氏の父親である、チャールズ・クシュナー氏が、フランス大使に指名されたというのも、注目すべき事件だと思います。

フランス大使に指名したクシュナー父は不動産業のライバル

表面的には、娘婿の父親への身内びいき人事に見えます。ですが、そもそも、チャールズ・クシュナー氏は、ニューヨークの不動産王として、トランプ氏とは犬猿の仲のライバルです。またその息子が溺愛している長女と結婚した後に、その長女夫妻はペンス氏などと一緒に父親を批判する立場に回っていたわけです。

そんな中でのチャールズ・クシュナー氏のフランス大使指名というのは、もしかしたら、再びイヴァンカ夫妻が父親を支えるかもしれない可能性を示していると思います。極端なファンタジーからできているトランプワールドと、現実との橋渡し役を夫妻が再び担うという可能性です。

仮にバンス氏の頭脳と、イヴァンカ夫妻の人脈が連動すれば、共和党議員団との連携は意外とスムーズに進むかもしれません。そうなれば、第二次政権についても、現実との連動ができる体制が回り始めるかもしれない、そんな見方もしておきたいと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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