コラム

二期目のトランプと「現実世界」を繋ぐのは誰か?

2024年12月04日(水)14時30分

トランプ再選の勝利宣言にはクシュナー夫妻も姿を見せた Carlos Barria/REUTERS

<バンス副大統領や、一旦は距離を置いた長女イヴァンカ夫妻が共和党議員団とのパイプ役となる可能性も>

2017年からの第一次トランプ政権は、比較的単純な構造を持っていました。大統領のトランプの周辺には、ボスの言うままに当時はツイッターでメッセージを流す「忠臣」ホープ・ヒックス氏がいました。また、そうしたメッセージ発信においてはスティーブ・バノン分析官(当時)が助言をしていました。彼らが支える中で、現職の大統領であるにもかかわらず、暴言気味のメッセージが流され、コア支持者の「期待」に応えていたのでした。

けれども、そんな「トランプ・カルチャー」は当然、非現実的なファンタジーであり、実際には「現実」との折り合いをつけながら、政策の実行に結びつけるルートが必要でした。具体的には、議会共和党との調整や連絡が必要です。こうした「現実との連絡係」としては、長女のイヴァンカ氏とその夫のジャレッド・クシュナー氏が担当していました。


更に、ホワイトハウスでは、首席補佐官が「現実」との調整の責任者として動いていました。当初はラインス・プリーバス元共和党全国本部長、政権後期は元海兵隊員で国土安全保障長官だったジョン・ケリー氏が首席補佐官として閣僚をまとめ、議会との調整を行っていました。また、マイク・ペンス副大統領(当時)も、現実との橋渡しの役割を支えていたのでした。

そんな中で、最初の4年間の任期を通じて、トランプ大統領は独自の世界と現実の間を行き来していたのでした。バノンの助言を得て「白人至上主義」を認めるなど、様々な暴言を流してコア支持者を喜ばせたかと思うと、プリーバスやイヴァンカ夫妻らの言うことを聞いて「普通の共和党大統領」的な発言をするというような、振幅の幅を常に見せていました。

第二次トランプ政権が現実との接点を失う危険

ですが、来年1月に発足予定の第二次政権では、まず第一次政権を支えたプリーバス、ケリー、ペンスといった人々は、トランプ本人と激しく対立して決別しています。一方で、首席補佐官にはスーザン・ワイルズ女史という「選挙に当選させるだけのプロ」が選ばれています。そして、閣僚のメンバーについては、現実との接点の薄い「トランプ的な世界に忠実な人材」ばかりで固められているという印象です。

このままで行くと、第二次政権は「現実との接点を失う」危険があり、その結果として弊害だらけの極端な政策に走る可能性が懸念されています。

そうではあるのですが、ここへ来て、第二次政権として「それなりに現実との接点」が機能するかもしれない、そんな兆候も見えてきました。2点指摘したいと思います。

1つは、司法長官候補に内定していたマット・ゲーツ元議員の指名を、アッサリ取り下げたエピソードです。ゲーツ氏に関しては、議会下院共和党の議員団の中で、最も強硬な右派、最もトランプ氏に忠実ということで指名されたという印象がありました。その上で、トランプ氏自身が受けている訴訟への対抗、2021年1月の議会襲撃犯の恩赦など、賛否両論のある法的問題をトランプ氏に有利に導くことが期待されていたのでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ249ドル安 トランプ関税

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story