コラム

第二次トランプ政権はどこへ向かうのか?

2024年11月07日(木)21時20分

第2は、経済政策です。現在、最新の時点では物価は相当程度の沈静化をしています。外食は下がらないものの、ファストフードは安売りの必要性に追い込まれています。卵や缶コーラは下がらないものの、スーパーは多くの商品で安売りを始めました。

これは、中国経済の失速を受けて原油価格が沈静化したこともありますが、何よりも連銀のパウエル議長による「失速しない程度に景気を減速させる」というギリギリのソフトランディング策が成功しているからでもあります。そう考えると、雇用情勢の悪化はその副作用とも言えます。


ですから、雇用を重視して景気を再加熱させるようだと、再び悪性のインフレが出るわけで、経済の舵取りはそう簡単ではありません。第二次トランプ政権は、そこでどんな手が打てるのかというと、かなりカードは限られると思います。そんな中で、不法移民を大量追放すれば農業とサービス業は回りません。中国製品に高額関税をかければ消費は一気に冷え込みます。

無理をしてスマホやタブレットを、アメリカの国内生産に切り替えれば、テスラのようにロボットを使った省力化が進み雇用は増えません。そうした中で、巨大な現状不満を受けて当選してもできることは限られています。ここは、待ったなしの課題であり、政策を最適解に寄せることができるのか、厳しく問われると思います。

ウクライナを「停戦」させられるか

3つ目は、ウクライナ戦争の落とし所です。トランプ氏はプーチン氏と相談して停戦へ持っていくとしています。また、バンス氏はウクライナはアメリカの生命線になるような国益では「ない」と言い切っています。マスク氏にしても、プーチン氏との個人的関係を隠そうとしません。

そんな中で、では今回にトランプ氏に入れた巨大な票は、NATOの結束を緩め、ウクライナの一方的な敗戦を認めるかというと、そこまで考えたうえでの投票行動ではないと思います。つまり、ウクライナ問題には今回の争点として民意の判断は無かったとも言えます。そんな中で、トランプ氏にできることには限りがあります。

何よりも、プーチン氏自身の中に戦時体制と戦時経済による求心力維持、これに依存する部分があるのであれば、多少の好条件でも停戦をのむ選択はないのかもしれません。仮にそうした大局的な観点から「自分が当選したら即時停戦して見せる」という発言が、シリアスなものではなく、現実的な、つまりNATOや西側同盟の基盤を壊さない方向に着地する可能性も残っていると思います。

これは時間的には待ったなしという面があり、二期目の政権の性格を占う上での試金石になると思います。ちなみに、議会の上下両院の議席はまだ確定していませんが、少なくとも共和党は上院の多数を占めることは確定しています。一見すると、トランプ氏には有利なように見えますが、上院の多数派が持つ権力は大きく、例えばNATOの結束を守るということでは、仮にトランプ氏が相当に手を突っ込みそうになった場合には議会共和党が防波堤になる可能性も残っています。

いずれにしても、世論や政財界も、トランプ氏の性格については既知であるというところが、一期目とは大きく異なります。結局は、暴言を軸とした無謀な政治ではなく、実現可能な保守政治へと軟着陸してゆく、それが二期目の行く末の可能性としては大きいと思います。経済と外交でそのようなカラーが見えてくるのかどうか、これからの動きに注目したいと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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