コラム

海外出張したら可能な限り現地観光をするべき

2023年08月02日(水)14時15分

自民党女性局のパリへの海外視察旅行が批判を浴びているが Nikada/iStock.

<海外視察に行ったら仕事以外してはいけないといった杓子定規な考え方では、現地の文化・社会を理解することはできない>

自民党の「党女性局」の政治家ら38名がフランスへの海外視察の際に「エッフェル塔での記念写真」などをSNSに投稿して批判を浴びました。この問題については、この視察が「少子化対策を学ぶ研修」であったことを無視して、その成果を問う以前に視察そのものを否定するように世論を誘導するのは乱暴だと思います。

この視察旅行ですが、フランスの少子化対策ということであれば、当然次の3点が含まれると思います。「手厚い現金給付」「婚外子の社会的受容」「3歳児からの義務教育」という3つです。いずれも、日本でも検討が必要な政策であり、政策当事者の声を聞くことだけでなく、賛否両論の生の声を聞くこと、そして制度改正の成果を実際に目撃することは良い参考になるでしょう。

そこで見聞きしたこと、経験したことを、今度は「女性局」の政治家が自分の選挙区に持ち帰って、頑固な反対世論を説得するとか、実施可能な政策にブラッシュアップすることが求められます。一連の騒動は、そのような本来の視察の意義が全く伝わらなくなっている点で、大いに問題があると思います。SNSの使い方を誤ったのは批判されるべきですが、拡散して問題を大きくしたメディアにも反省を求めたいと思います。

岸田翔太郎元秘書官がロンドンで起こした騒動の際にも思ったのですが、日本には、海外視察に行ったら「仕事以外してはいけない」という杓子定規な発想があります。必要な会議に出て、予定されていた視察を行い、後はホテルの自室でまとめレポートを書いたり、日本とのビデオ会議に参加したりなどといった行動は「仕事」だが、公費で出張したのだから、それ以外の行動は「公私混同」になるのでダメだという発想です。

ローカライズマーケティングの重要性

今回のエッフェル塔騒動の余波として、民間企業の間でも、そのような「杓子定規」が亡霊のように出てきては困ります。断言しても良いと思いますが、海外出張したら、時間の許す限り観光するべきです。

例えばパリに出張したら、エッフェル塔に上って整然としたパリの都市計画を見ておくのは、ほぼマストです。ニューヨークなら、エンパイア・ステート・ビル(もっと新しいヴァンダービルトなどでもいいですが)から、都市圏の全体像を把握する、ブロードウェイの賑わい、ダウンタウンの雰囲気などを知るのも、「特に初めて訪問するのであれば」絶対に外せないと思います。

何故ならば、そのような観光をすることで、まずその国の文化や社会の理解について、第一歩を踏み出すことができるからです。整然とした都市計画を実施する国は、その文化においてどんな論理性を持っているのか、あるいは雑踏を歩く人々の態度や姿勢は日本とどう違うのか、百聞は一見にしかずとはよく言ったもので、そうした経験はその「国を知る」上で外せません。

例えば、電子製品でも食品でもいいですが、その国へ市場として商品を販売しに行こうと思うなら、そのような「国の文化と社会」を体感することから始めて、やがて地元の多くの人との交流を重ね、試行錯誤をしながら商品をローカライズすることになります。商品を売り込むのではなく、金融上の取引であっても、相手の文化や発想法を理解していれば、不利な契約を押し付けられることもなく、戦略的な交渉ができるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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