コラム

ニューヨーク連続爆発事件、大統領選への影響は?

2016年09月20日(火)13時10分

 それ以外は、宗教的な急進派であるような兆候は報じられてはいません。FBIのウォッチリストにはまったく引っかかっていないという発表もありました。但し、自分の姉(妹?)にナイフを突きつけたというDV事件の絡みで警察に聴取を受けたことはあるようです。

 NBCの戦争報道のプロである、リチャード・アングルは「あまりに稚拙な犯行で、組織とのつながりは薄いと思われる」という見解を述べています。また、ISISは、この種の事件があると「後付けの理屈」として「彼は我々の戦士だ」などという声明を出すことが多いのですが、このラハミに関しては沈黙しています。

 なお、事件のあったマンハッタン・チェルシー地区やニュージャージー州のエリザベス駅、リンデン、シーサイド・パークというのは、すべてニュージャージーに住む筆者の行動範囲で、まったく他人ごとではありませんでした。すぐ近所の駅や学校でも、この日は警戒態勢が敷かれ、電車のダイヤは大きく乱れるなど終日混乱が見られました。

 一方、現在は大統領選の最中で、トランプは早速「(テロとの戦いの)事態は益々悪化している」とコメントしています。一方のヒラリーは、このトランプの発言を受けて「危険なレトリック」だと非難、「迅速な展開にはFBIと警察の努力が奏功した」と語っています。

【参考記事】「健康問題」と「罵倒合戦」で脱線気味の大統領選

 さらに犯人逮捕があった夜には、トランプは「イスラム教徒の一斉取締りを行う」と言明しています。インタビューをしていたFOXニュースの著名な「保守派キャスター」であるビル・オライリーは呆れ顔で「どうやってやるんですか?」と追及したのですが、トランプは「イスラエルがプロだから、イスラエルのノウハウでやる」と息巻いていました。

 一方で、この事件に関する評価に関しては、様々な見方が出ています。例えば、FBIは「これはテロなのか?」という質問に対して「テロとは政治的・宗教的な目的を遂げるために恐怖を使用するものだ」という定義に照らして、この事件があてはまるかどうかは「今後の捜査の進展による」という慎重な姿勢を取っています。

 地元ニューヨークでも、クオモ知事は早々に「テロ」と断定していますが、デブラシオ市長は「テロかどうかは分からない」としています。恐らく「トラブルメーカーのフライドチキン店の犯罪」という見方と「アフガン渡航歴のあるテロリスト」という見方の間で、拙速な決めつけはしないということなのでしょう。

 基本的には捜査の進展を待つしかありませんが、「深刻なテロであり、捜査当局には失態があり、脅威が拡大している」のであればトランプが有利になり、「捜査当局は優秀で脅威はコントロールされている」のであればヒラリーが有利になる、といった雰囲気が各局の特番からは感じられます。

 いずれにしても、今後の展開は気になるところです。ちょうどこの犯人逮捕劇から一週間後の来週26日には、現場に程近いニューヨークのロングアイランドで、第一回の大統領選テレビ討論が予定されています。事件を受けて、「テロ対策問題」が取り上げられることは不可避であり、両候補の真剣な議論が期待されます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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