コラム

「健康問題」と「罵倒合戦」で脱線気味の大統領選

2016年09月16日(金)15時40分

Bryan Snyder-REUTERS

<ヒラリーの「健康不安説」をやたらに騒ぎ立てたメディアだが、一方のヒラリーもトランプを罵倒するばかりで政策論争に踏み込まない。このままでは「積極的支持層」まで離れてしまう可能性もある>(写真は今週、体調の回復をアピールするヒラリー)

 9/11同時多発テロから15年の追悼式典が行われた日は、大変な猛暑となりました。その前週の途中から季節外れの暑さとなり、私の住むニュージャージーでは朝から異常な高温でしたから、お隣のニューヨークでも同様だったと思われます。

 この追悼式典には多くの政治家が参列していました。ヒラリーとトランプも列席していました。式典は、公園の木陰で行われます。木陰といっても完全に露天で、ゲストも立ちっぱなしというのが通常で、今回もそうでした。

 ですから、おそらく気温32度ぐらいの猛暑で高湿度の中、黒いスーツを着ていたヒラリーは大変だったと思います。結果的に、気分が悪いということで予定を切り上げて1時間半で退席しました。

 そのままヒラリーは、マンハッタン島内にある娘チェルシーのアパートで休息し、気分が良くなったということでアパートの前に姿を表して、「もう大丈夫」だと言って手を振り、支持者の子どもと一緒に写真に写ったりしていました。

【参考記事】トランプ、「やぶ医者」の番組で自らの健康を語る

 ですが、同時にメディアなどでは「大統領候補の健康に関する情報開示」が足りないという批判が出たのと、グラウンドゼロを引き上げる時、SPに両側から支えられて車に乗り込む際に「よろけた」映像が出回ったために、最終的には主治医の診断が公表されることになりました。

 具体的には "walking pneumonia" つまり軽症のウイルス性肺炎ということで、数日前から咳も出ていたというのです。そう言えば、その数日前のスピーチでは、かなり咳をしていました。主治医の強い勧めで12日からの2泊3日のカリフォルニア遊説はキャンセルし、数日間はニューヨーク郊外の自宅で静養することになりました。

 まったくもって、それ以上でも以下でもありません。考えてみれば、この猛暑が来る前、つまりヒラリーが咳をし始めた直前には、反対に朝晩は摂氏10度ぐらいまで冷え込んでいましたから、大統領候補でもカゼはひくでしょう。仮にカゼだとして、抗生剤がヒットしそうで処方するのであれば、この「軽い肺炎」という診断もまったく不自然ではありません。

 ところがメディアはいきなり「ヒラリー健康不安説」を騒ぎ立て、やれルーズベルトがポリオを隠していたとか、JFKも腰と腎臓の持病を隠していたとか、まるでヒラリーが重大な「健康問題を隠している」かのような騒ぎぶりでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ペプシコの第1四半期決算、海外需要堅調で予想上回

ビジネス

仏ケリング、上期利益が急減の見通し グッチが不振

ワールド

トランプ前米大統領、麻生自民副総裁と会談=関係者

ワールド

北朝鮮「圧倒的な軍事力構築継続へ」、金与正氏が米韓
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story